文化財の保存に適した新たな空気環境構築技術を開発、展示物の早期公開を実現:製品動向
大成建設は、美術館や博物館の新築・改修工事に際して文化財の保存に適した空気環境を構築する技術として、新たな建築材料の選定方法および空気中のガス成分を効率的に除去する空気循環浄化装置を開発した。新技術を適用することで、文化財の保存に有害なガス成分の発生量が少ない建材を事前に選定でき、また、文化財の収蔵・展示空間の空気を早期に清浄化することが可能となり、工事終了から公開までの期間短縮が図られるとともに、公開後も健全な空気環境を保持する。
大成建設は、美術館や博物館の新築・改修工事で、文化財の保存に適した空気環境を構築する技術として、新たな建築材料の選定方法と空気中のガス成分を効率的に除去する空気循環浄化装置を開発したことを2021年5月28日に発表した。
文化財に無害な建材を3日で判断する新たな評価法
美術館・博物館などの文化財を収蔵、展示する施設では、建物に用いるコンクリートや仕上げ材から発生するアンモニアや酢酸といった有害なガス成分が、文化財に変色などを生じさせる恐れがあることが知られている。そのため、これまで美術館・博物館に適した空気環境の構築では、建物の新築と改修時のコンクリート打設から一定期間を空けて、空気の「枯らし期間」を設けた後で、展示物を公開することが望ましいとされていたが、展示物を披露するのに時間がかかるという課題があった。
また、新設・改修した施設では、文化財の速やかな公開を目指し、できるだけ短期間で文化財の収蔵、展示に求められるガス成分の気中濃度を確保するため、ガス成分の発生量が少ない仕上げ材料の選定や施工中に空気清浄機を使用して換気効果を促進するなど、ガス成分の気中濃度を低減させる対策で、「枯らし期間」の短縮が図られてきた。しかし、粉じんによる空気清浄機の目詰まりといったさまざまな問題があった。
そこで、大成建設は、早期に美術館・博物館に最適な空気環境の構築を可能とする材料の選定方法と対象空間の空気を長期安定処理する空気循環浄化装置を開発した。
新たな材料の選定方法は、試験材料をプラスチック製の袋に封入し、検知管を用いた濃度測定で簡易に建材を評価する。特徴は、従来のものでは評価に1カ月を要するのに対し、新たな評価方法は3日で評する点。これにより、使用する全ての材料を事前に評価することで、文化財に有害なガス成分の発生量が少ない材料を短期間んで選べる。
空気循環浄化装置は、電動ファンとアンモニアガスの吸着材料を組み合わせたもので、軽量で長期運転を果たす。さらに、空気透過性の高いフィルターを採用することで、粉じんによる目詰まりの発生を回避し、長期安定性を維持することから、適切な空気環境の構築と保持を後押しする。
新技術を適用した大倉集古館リニューアル工事の事例では、竣工後1カ月で最適な空気環境が構築され、早期の公開に至っている。
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