展示ケース内の汚染を長期間防ぐ新技術「ピクチャープロテクト」
大林組は、グループ会社の内外テクノスと共同で、美術館や博物館などに設置される展示ケースの内装材などから発生する有害ガスを抑制する空気質の汚染対策技術「ピクチャープロテクト」を開発した。施工直後から長期間にわたり、密閉した展示ケース内を良好な状態に保つことが可能になる。ピクチャープロテクトは、2019年1月をめどに内外テクノスで販売開始する予定。
大林組は、グループ会社の内外テクノスと共同で、美術館や博物館などの展示ケースの内装材などから発生して、美術品を劣化させる原因となる有害ガスを抑制する新技術「ピクチャープロテクト」を開発した。
展示ケース内の有害ガスを大幅に抑制
美術館や博物館に収蔵されている貴重な絵画、彫刻などの文化財や歴史的資料は、温湿度の変化に伴って劣化しやすいため、気密性の高い展示ケースで保護されている。しかし、展示ケースに使われる内装材などから発生する有害ガスが蓄積すると、展示物に悪影響を及ぼすため、有害ガスの成分となっているアンモニア、酢酸・ギ酸といった有機酸などは、東京文化財研究所が上限として定めている濃度に抑制する必要がある。
アンモニアは、コンクリートや水系塗料など、さまざまな建材から発生し、展示ケース内に充満する。一方、有機酸は、展示ケースの壁面を構成する主な材料である下地用の合板、表面のクロス、それらを接着するでん粉系接着剤から生じる。そのため、合板は一定期間放置して化学物質を放出させたものを用い、クロスには有害ガスの発生量が少ないものを採用して、施工後にも「枯らし期間」を設けなければならない。
そうした対策を講じたとしても、発生量をゼロにすることは難しく、密閉されたケース内では時間経過とともに濃度が高くなるため、定期的な換気が必要となる。また、近年増えている改修工事では、工期がタイトなため、枯らし期間を十分に確保できず、換気とガス吸着シートの張り付けを併用して対処しなければならないことも課題となっていた。
今回開発したピクチャープロテクトは、施工直後から長期にわたり、密閉された展示ケース内を良好な状態に保つことを実現する空気質汚染対策技術。合板の表面にガスバリア層とガス吸着シート層を設け、新たに開発した“特殊接着剤”でクロスを張り付ける。ガスバリア層が合板から発生する有機酸などの有害ガスを遮断すると同時に、ガス吸着シートがビス穴やクロスから発生する有害ガスを吸着。新開発の特殊接着剤は、それ自体が有機酸などを発生させないだけでなく、透湿性があり、ガス吸着シートの呼吸を妨げることがないため、有害ガスの抑制効果が最大限に発揮される。
比較実験では、従来工法で施工した展示ケース内は、日ごとに有害ガスが蓄積して濃度が高まるのに対し、ピクチャープロテクトで施工した展示ケース内は日数が経過してもほとんど濃度の変化はなく、有害ガスが大幅に抑制されていることが確認されたという。
施工に際しては、下地板となる合板にガスバリア層とガス吸着シートが接着された状態で工場から出荷されるため、現地での工程を増やすことなく、これまでと同様の施工が可能。施工後もアンモニアや有機酸がほとんど発生しないため、枯らし期間を短縮できる。改修工事の場合は、厚さ6.5mm(ミリ)の薄い下地板を既存の壁にかぶせ張りするだけで完了するため、短期間での改修も可能になる。
使用しているガス吸着シートには、吸着材以外に、天然粘土系調湿材料がすき込まれており、優れた調湿性能を持つ。周囲が高湿度の場合は吸湿し、乾燥状態の時は逆に放湿するため、展示ケース内の湿度を一定に保ち、文化財の劣化を防ぐ。
ピクチャープロテクトは、2019年1月をめどに内外テクノスで販売する予定。今後、大林組は美術館や博物館の新築および改修工事に含まれる壁付展示ケースや独立展示ケース、展示台、展示パネルなどへのピクチャープロテクトの適用を積極的に提案していくとしている。
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