「デジファブで建築の民主化を」VUILD秋吉代表が拓く建築ファブの夜明け【後編】──“コンピュテーショナルデザイン”との融合:ニューノーマルを生きる建築のRe-build(2)(2/4 ページ)
DIYの下地が無い日本でも欧米に遅れること、都市の中で市民誰もがモノづくりを行える工房「FabLab(ファブラボ)」が各地に開設されてから数年が経つ。建築の領域では、マテリアルを切削や積層して形づくる3Dプリンタが、ゼネコンを中心に研究されているが、業界の裾野まで浸透するには、海外とは異なり法令規制など幾多の課題が立ち塞がっているため、まだ時間を要するだろう。しかし、デジファブによって、建築の産業構造そのものを脱構築し、建築モノづくりの手を市井の人に取り戻そうとする意欲的な建築家 秋吉浩気氏が現れた。
「デジファブは“プリファブリケーション”をより推進する技術」
デジファブが建築設計者にとって距離の近い存在となれば、設計から製造、その先には施工にもつながっていく。仮に、ShopBotやRoverで製造された木材パーツに番号が振られ、どの順番で組み立てれば良いのかが現場で一目で分かれば、施工の効率化がもたらされる。
デジファブによる製造から施工への橋渡しについて秋吉氏は、「今はまだ現場で加工している部材を、製造段階で正確に部品化していれば、非住宅の領域でも施工の合理性は格段に上がる。言い換えると、製造で施工の工期や品質をコントロールできるようにもなる。施工の自動化を突き詰めれば、究極的には現場でのロボット施工に到達するだろうが、その場合でも、デジタルで作り出した部材をロボットがどう動いて組み立てるか?だけが問題になるだろう。デジファブは、建材・部材を加工して現場で組み立てる“プレファブリケーション”をより進化させ、自由度が高く、安価でスピーディーな設計・製造・施工の連続したフローを実現させる」と話す。
VUILDが事業の柱とするハードウェア販売「ShopBot Japan」とソフトウェア開発「EMARF(エマーフ)」ともう一つ、建築設計事務所としての「VUILD ARCHITECTS」でも、設計→製造→施工の連続性を途切れさせない独自の設計手法を採り入れている。
その最たる作品としては、「SDレビュー2019」に入選した大学構内の木造屋外施設「学ぶ、学び舎」が代表例として挙げられる。学ぶ、学び舎のプロジェクトでは、3Dモデリングツール「Rhinoceros」とプラグインソフト「Grasshopper」を使用し、グローバルでも潮流となりつつある次世代の設計手法“コンピュテーショナルデザイン”で行った。
自社でコードを記述してプログラムを組み、多様な形状パターンを自動生成。部材の製造工程では厚さ約210ミリの板を削って曲面を作るため、削り方の角度や雨水が流れることをプロフラムで判定しながら、最終的な板割り後のパーツ単位までを含めてコンピュテーショナルデザインで設計した。当然ながら、板の枚数が増えれば増えるほど、コストに跳ね返るので、最低限の枚数で済むようにも、複数のプログラムを連動させながら検討を重ねた。この案件は言わば、単に意匠設計だけでなく、全ての生産工程も設計段階で策定するという、設計までフロントローディングを前倒しした先進的な試みとなっている。
また、最近手掛けた物件では、川崎市のレーザーカッターを保有する町工場の協力を得て、金属系のマテリアルと木の融合にも挑戦。面白法人カヤックが鎌倉の民家2棟をリノベーションした敷地の中庭に、オフィスとオフィスをつなぐ、社名にちなんだカヤック2艘が宙に浮いたパーゴラ(木造の日陰棚)を構築した。
設計では、コンピュテーショナルデザインで寸法と形状の異なる接合部のデータをモデリングした。次の製造フェーズでは、構造体の端部にある金属の柱のデジタルデータを金物製作の工場に渡し、レーザー加工機で切断して杉材のCLTと組み合わせたという。
VUILD ARCHITECTSの強みとなっているコンピュテーショナルデザインは、自身でも得意分野とする秋吉氏の他、建築の世界ではまだ希少なプログラムが組める社内のデザイナー数十人によって支えられている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.