大和ハウスとトプコンが協業、現場のデジタル化やデジタルツイン技術の創出を目指す:産業動向(3/3 ページ)
大和ハウス工業は2020年11月25日に、デジタルデータによる一元管理で、建設現場の全工程で生産性向上を実現させるべく、トプコンと基本合意書を締結した。
8工程でデジタル技術を投入
次に登壇した大和ハウス工業の宮内氏は、同社がトプコンのデジタルテクノロジーを用いて建設したトプコンオプトネクサス新工場の概要と基本合意の施策などを紹介した。
トプコンの100%子会社トプコンオプトネクサス新工場は、S造1階建てで、延べ床面積は7548.12平方メートル。所在地は福島県田村市大越町上大越字後原10で、建築面積は7749.97平方メートル。用途はレンズとプリズムの製造工場で、設計・施工は大和ハウス工業が担った。着工は2019年12月で、竣工は2020年10月。
トプコンオプトネクサス新工場の施工では、「準備」「外構・造成工事」「基礎工事」「鉄骨工事」「土間工事」「設備工事」「内装工事」「外構仕上げ」の8工程でデジタル技術を導入。BIMデータや3次元デジタル測量機、ICT建機を活用したワークフローの確認と従来法との比較検証を行った。
結果、測量作業では、3次元デジタル測量機で墨出し位置を可視化し、これまでスタッフが紙図面を見ながら通り方向と高さを別々に測っていた方法と比べて、業務時間の短縮と作業効率の向上を果たした。施工では、ICT建機で設計通りに刃先位置を自動制御して実施し、オペレーターの技量に左右されていた一般的な建機の操作より、施工時間を削減し、品質が安定した。
品質と検査では、検査範囲全体を3Dの面データとして3次元デジタル測量機で計測し、面的に施工品質を確かめられる証跡を保存し、検査部分のみを目視もしくはアナログデバイスで測定する手法よりも精度が格段に上がった。また、3Dの面データを設計者にフィードバックして、現場との差異を確認しやすくし、設計データの修正を円滑にすることも行った。
「杭の位置出しと建て入れ精度のチェックでは、トプコン製トータルステーション“LN-100(杭ナビ)”を使った。杭の位置出しは、これまで2人1組で1日に150カ所が限界だったが、杭ナビを導入することで、1人で最大300カ所の位置出しが行えるようになった。施工では、マシンコントロールを搭載したICT建機で、根伐工事における掘削やバケットの深さ、土間工事での排土板の高さを自動制御することで、各作業のチェック回数を減らした」(宮内氏)。
基本合意の内容について、宮内氏は、「両社は、政府が提唱する未来社会のコンセプト“Society5.0”に準拠し、2025年までに建設業の生産性20%向上に貢献していきたい。そのための方針は、デジタルコンストラクションの施工現場への本格適用だ。具体的な施策としては、施工現場をデジタル化するための標準化や建設現場のデジタルツイン技術創出、デジタルエビデンスのマネジメント手法確立と維持管理への活用を予定している」と解説した。
今後について、宮内氏は、「両社が現状で導入できるデジタル技術を取り入れるとともに、人材を育てる。その後、デジタル技術をカスタマイズし、ワークフローを改善する。最後に新たな仕組みやデジタルテクノロジーを作成し、現場に採用して、デジタルコンストラクションを定着させたい」と展望を示した。
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