せん孔データから吹付け面や地山掘削面の余掘り量を測定する新システム:山岳トンネル工事
鴻池組らは、統合せん孔支援システム「ドリルNAVI」を使用して、山岳トンネル工事の発破孔やロックボルト孔せん孔時のせん孔データ(せん孔エネルギー、せん孔速度など)を5Hzで取得し、吹付け面や地山掘削面の境界面を3次元座標で正確に見える化し、余掘り量を導き出すシステムを開発した。今後、新システムは、吹付け面や地山掘削面の自動抽出、出来形図の自動出力、最適な発破パターンの自動作成などの機能を加えて、製品化を目指す。
鴻池組と古河ロックドリル、マックは、統合せん孔支援システム「ドリルNAVI」の新機能として、取得したせん孔データから、吹付け面や地山掘削面の3次元座標を特定して余掘り量を測定する「トンネル余掘り測定システム」を開発した。
吹付け面や地山掘削面の出来形、吹付け厚、余掘り量を誤差20ミリ以内で計測
山岳トンネル工事の余掘り低減は、施工サイクルの向上や吹付けや覆工コンクリートなどの材料コスト削減を図る上で重要となる。余掘りの測定は、発破直後の素掘り面近くに、レーザースキャナーなどの測定器を設置して、約15分かけて測っている。また、計測中に地山の安定性が低下して、切羽が崩壊するなどの危険性も伴っていた。
鴻池組らが開発したトンネル余掘り測定システムを開発は、ドリルNAVIを使用して、山岳トンネル工事の施工サイクルで行う発破孔やロックボルト孔せん孔時のせん孔データ(せん孔エネルギー、せん孔速度など)を5Hz(ヘルツ)で取得し、吹付け面や地山掘削面の境界面を3次元座標で正確に見える化する。
吹付け面と地山掘削面の境界面特定は、施工直後に、圧縮強度が1平方ミリあたり約5ニュートンの吹付けコンクリートと、圧縮強度が1平方ミリあたり50ニュートンを超える硬質な地山との強度差に着目しつつ、せん孔データの変化量や変化率を踏まえて行う。
両圧縮強度を比較するとともに、各せん孔データを考慮して、両境界面を特定することで、吹付け面と地山掘削面の出来形情報を取得する。両出来形の差から吹付け厚を算出し、設計掘削面と地山掘削面との差から余掘り量を導き出す。
新システムの利点は、通常の施工サイクル内で余掘りを測れるため、施工サイクルタイムに影響を与えず、余掘り計測時に掘削面を素掘りの状態に保つ必要がないため、地山の状態が不安定にならない。さらに、通常の施工サイクルで自動的にデータを取得するため、余掘り測定用の安全対策が不要となる
新システムの性能試験では、切羽付近に設けた基準点に、各削岩機のビット先端を押し当て、3次元座標を取得。各削岩機により生じた座標の誤差を現地で簡易に補正することで、吹付け面や地山掘削面の出来形、吹付け厚、余掘り量を誤差20ミリ以内で安全に測れることが分かった。
削岩機で発生した座標の誤差を補正する方法が簡単なため、トンネル全線の出来形管理だけでなく日常のせん孔管理に有効なことも明らかになった。
今後、新システムは、吹付け面や地山掘削面の自動抽出、出来形図の自動出力、最適な発破パターンの自動作成などの機能を加えて、製品化までを視野に入れる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 削孔管の引き抜き不要で湧水帯の湧水量と水圧を測れる「T-DrillPacker」
大成建設は、山岳トンネル工事で、調査ボーリング削孔中に発見した湧水帯の湧水量と水圧を効率的に測れる技術「T-DrillPacker」を開発した。T-DrillPackerは、削孔途中に削孔管の引き抜きがいらないため、既削孔区間での孔壁崩壊といったリスクを避けられる。また、ボーリング削孔途中でインナービット回収とパッカー挿入を迅速に行え、従来のように削孔管を全て引き抜く方式と比べ、測定時間を20%減らせる。 - 安藤ハザマがトンネル坑内を可視化する新システムを開発
安藤ハザマは、ソフトウェア開発会社のエム・ソフトと共同で、山岳トンネル工事中のトンネル坑内状況を見える化する新システムを開発した。今後、山岳トンネル工事だけでなく、既設トンネルや導水路の維持管理工事でも適用していく。 - 鹿島建設、トンネル内外の車両をシームレスに測位するシステム
鹿島建設は、トンネル工事における現場全域の車両の運行を見える化するシステムを開発した。GNSS電波の届かない坑内においても、車両の相互位置や走行方向を正確かつリアルタイムに検知できるため、リアルタイムな工事の進ちょく管理、安全性と生産性の大幅な向上が可能となる。 - ホイールローダー遠隔操作システムを開発、実作業に近い操作を再現
西松建設は、山岳トンネル工事で使用するホイールローダーの遠隔操作システムを開発した。新システムは、オペレーターが車体に設置した複数のカメラ映像を見ながら、坑内のずり運搬作業を遠隔で操作する。今回の開発を足掛かりに今後は、トンネル工事全体の無人化施工を目指し、遠隔操作の技術を掘削に使う他の重機にも応用していくという。