欧州でのFM関連ITシステムの変遷:欧州FM見聞録(4)(2/2 ページ)
本連載では、ファシリティマネジメント(FM)で感動を与えることを意味する造語「ファシリテイメント」をモットーに掲げるファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクターの熊谷比斗史氏が、ヨーロッパのFM先進国で行われている施策や教育方法などを体験記の形式で解説する。第4回は、FMに関連するITシステムの変遷を採り上げる。
2001年頃の英国でのFMシステムの実態
筆者が、オランダのFM大学院を修了した2001年頃、業務研修を受けたFMソーシング第1世代(参照:欧州FM見聞録(1))の英CBXでは、CMMSやCREMが活用されているのを目の当たりにした。
英CBXがFM業務を受託していたロンドンの放送局には、当時既にCMMSが導入されていて、担当者は「毎朝、システムからその日の点検作業が自動でFAXにより送られてくるので、これを作業者に配布している」と言っており、24時間設備を止められない放送局の設備管理を極めて少ない人数でこなしていたのに驚いた。
また、主要顧客である英Xeroxの英国内80拠点・約100万平方メートルに及ぶ施設を管理しており、そのすべてに渡るCREMやCMMS、運営コストデータを持っていた。しかし、当時その3つは連携していなかった。
当時のアカウント(顧客担当)マネジャーが、「拠点ごとに1平方メートルあたりの運営費と維持管理を出して比較したいと、担当者と財務担当者に2年間言い続けているができていない」と愚痴をこぼしていた。
1m2あたりでかかるFMコストの算出方法
1平方メートルあたりの運営費と維持管理費の比較は筆者も思い当たることがあった。1990年代中盤、日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)に出向時、ベンチマークの必要性を知り、現在は存在しないベンチマークデーターセンターの設立に携わった。当時、JFMA会員の1番知りたいことが、この1平方メートルあたりでかかるFMコストだった。こういった経験もあり、筆者はCBXのアカウントマネジャーの思いがよく理解できたので、筆者が「何とかしてみよう」となった。
当時筆者は英CBXのIT部門に在籍し、データベースから顧客向けのレポートを作る仕事をしていた。この作業は、今でいうBI(Business Intelligence)ツールのようなソフトウェアを使っていたが、そのツールはデータベースの汎用言語「SQL(Structured Query Language)」で構築されていた。つまり、元のデータはSQLで参照可能なデータベースに保管されていたということである。
しかし、昨今のBIツールでは、複数のデーターソースから1つのレポートを作成することは簡単だが、当時のツールは、1つのデータベースからしかデータを取り出せなかった。
そこで、少しMicrosoft製データベース管理ソフト「Access」をいじったことがあった筆者は、CREMとCMMSのデータをAccess上のテーブルにリンクし、そこでそれぞれのデータをひも付けたテーブルを連携してクエリを作成し、1平方メートルあたりでかかるFMコストを見える化した。
余談ではあるが、その後、英国人同僚の筆者への態度が急に変わったのを覚えている。以降は、英CBXの中で極めて仕事がしやすくなった実感がある。
2000年頃に英CBXが導入していたヘルプデスクの機能
話は少し変わるが、英CBXには、英Xeroxのユーザーからリクエストを受けるヘルプデスクがあった。ワンストップのヘルプデスクがあるというのは、当時の日本で行われていたFMを考えると、画期的なことに思えたが、ワークフローは、まだアナログなものだった。
ヘルプデスクの作業手順は、電話でリクエストを受けると、その拠点の情報が書いているファイルを机の引き出しから取り出し、実際に対応するベンダーなどに連絡をしていた。
しかし、こういったヘルプデスク業務をIT化するツールは、修士論文で「CRM(カストマーリレーションマネジメント)」という概念を調べていたので、直にシステム化するであろうことは容易に想像できた。
2000年前後、ヨーロッパのFM業界では、今回説明したように、いくつかの領域がシステム化していたが、それぞれは、まだあまり連携が取れていなかった。その後、2000年代中盤頃だに、これらのFMツールをまとめるシステム「IWMS(Integrated Workplace Management System)」が現れる。
次回は、IWMSの概要について解説する。
著者Profile
熊谷 比斗史/Hitoshi Kumagai
ファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクター。1986年に富士ゼロックスにソフトウェア開発として入社。1990年に同社のオフィス研究所に異動後は一貫してファシリティマネジメントに携わる。JFMAへの出向やオランダFM大学院、イギリスFMアウトソーシング会社での研修、国内でのFMビジネスを経験する。2007年、イギリス系不動産コンサル会社DTZデベンハム・タイ・レオンに入社。グローバルFM/CREコンサルタントに従事。その後独立し、2012年にファシリテイメント研究所を設立し、今日に至る。ユーザーのイクスピリエンス(感動体験)を創るホスピタリティFMを目指し、CREやワークプレースプロジェクト、FM管理業務からFMのIT分野まで幅広くコンサルティングを提供する。
★連載バックナンバー:
『欧州FM見聞録』
■第3回:欧州のFM最新潮流を知る「IT化によるイノベーションの時代へ」
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