ファシリティマネジャーってどんな人(下):いまさら聞けない建築関係者のためのFM入門(5)(2/2 ページ)
本連載は、「建築関係者のためのFM入門」と題し、日本ファシリティマネジメント協会 専務理事 成田一郎氏が、ファシリティマネジメントに関して多角的な視点から、建築関係者に向けてFMの現在地と未来について明らかにしていく。今回は、前回の後編として、現実の優秀なファシリティマネジャーを紹介しつつ、引き続きあるべき姿とはどのようなものかについて論じる。
ソフト・ハード両面でファシリティを生かす「生涯賃貸」
賃貸住宅事業は、住宅を所有するのではなく、構築したコンセプトに基づき、家族構成の変化に合わせて賃貸住宅に移り住む、新しいライフデザイン「生涯賃貸」を提案している。ライフステージの変化に応じた住宅のスタイルを提供し、地場の木材を利用したリノベーションや農業を活用した地域の活性化、里山の運営など、ソフト・ハード両面から、それぞれの地域や建物特性に合わせ、既存ストックを再編成して利活用するという、まさにファシリティを活かすFMの視点に立った戦略を打ち出している。
一方、高齢者住宅事業では、健康寿命を延ばして、いつまでも健康に暮らす「生涯自立」を掲げ、食事と運動と音楽などの力を利用し、寝たきり老人をいかに減らすか、入居者の真の幸福を考えることで、公社の経営にも寄与できるような多様な戦略や施策が進められている。
私がとくに特筆すべきと思うのは、音楽やコーラスなどを魅力的に企画し、生きがいとして多くの入居者が自ら積極的に参加する機会を与えるとともに、若い芸術家の表現の場も創出し、関係する全ての人たちをハッピーにしていることである。その結果、神奈川県立音楽堂で平均年齢84歳、総勢100人以上の入居者の発表会をしたり、令和元年度には、ドイツ語でベートーベンの第九に挑戦したりするという、入居者の人生にとって極めて価値のある成果に結びついている。
その他、環境への配慮、SDGsへの取り組み、財務再編成など、山積する課題も幅広く着実に解決して前進させ、経営的な成功を達成している。FMの財務・品質・供給の3視点がバランスよく実践されている好例だろう。
こうした神奈川県住宅供給公社の取り組みを、理事長以下80人足らずの職員が身を持って実践し、ニーズ・社会環境の変化に対応しつつ、地域社会への貢献なども盛り込み、巨額の負債を削減するといった経営は、ファシリティを活用しようと試みる地方公共団体のFM施策や地方再生、団地再生の“ベストプラクティス”であり、見本とすべきものである。
「FMはコア業務ではないので」という言葉を時折耳にするが、当事例はコア業務にFMを生かした最適なケースといえよう。
★連載バックナンバー:
『いまさら聞けない建築関係者のためのFM入門』
■第3回:FMはどこから来たのか、そしてFMを学ぶには――(下)
■第2回:FMはどこから来たのか、そしてFMを学ぶには――(上)
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