ファシリティマネジャーってどんな人(上):いまさら聞けない建築関係者のためのFM入門(4)(2/2 ページ)
本連載は、「建築関係者のためのFM入門」と題し、日本ファシリティマネジメント協会 専務理事 成田一郎氏が、ファシリティマネジメントに関して多角的な視点から、建築関係者に向けてFMの現在地と未来について明らかにしていく。第4回は、ファシリティマネジャーのあるべき姿について論じる。
ファシリティマネジャーの基本は「ケイコとマナブ」にアリ!
私は、ファシリティマネジャーの基本を、「ケイコとマナブ」で表現している(図1)。ご存じのように、ケイコとマナブは、リクルートの習い事や資格スクールの情報誌である。残念ながら既に休刊してしまっているが、いまだにファシリティマネジャーの基本条件として、この単語を使わせていただいている。つまり、ファシリティマネジャーは、ケイコさんになって欲しいというメッセージである。ケイコのケは「健康」、イは「意欲」、コは「コミュニケーション」。この3つは、ファシリティマネジャーの基本条件である。決して、「マアマア」「ナアナア」「ブウブウ」というマナブ君になるなというメッセージでもある。
心身ともに健康で、意欲を持って人・組織・社会に貢献する役割を担い、あらゆる人々とのコミュニケーションできる能力を持っている人になって欲しい要望である。
これらについて、FMの教科書「公式ガイドファシリティマネジメント」では、次のように記している。
「経営戦略から日常業務までに至る幅広い視点で、ファシリティの経営活動にかかわるのがファシリティマネジャーである。求められるスキルは、ヒューマンスキル(ホスピタリティ)、テクニカルスキル、マネジメントスキルと、幅広い知識、コミュニケーション能力などがある。特に近年、ファシリティ利用者も多様化し、ダイバーシティー対応と共に、グローバルな視野が求められる」。
これらを簡単に示すと図2になる。FMのプロフェッショナルとしては、ホスピタリティ(マインド)を核にして、経営・基本ビジネス(センス)をもってマネジメントし、FM専門知識・技術(ノウハウ・スキル)を保有する専門家である。
日本のファシリティマネジャーは、技術系の男性が大半だが、欧米では経営系でMBA(経営学修士)取得者や女性も多く、専門性や男女のバランスもとれている。さらに、核となるホスピタリティについては、ホテルや医療関係で語られることが多いが、オフィスも含め、あらゆる用途に必要で、まさにFMの基本となるものである。日本でいうおもてなしも大切な要素だが、ダイバーシティーへの配慮や単なるおもてなしやサービスを超えたハード・ソフト両面からのおもてなし、さらには感動へとつなげる必要がある。そのためには、ファシリティマネジャーは、経済性、効率性だけでなく、利用者や経営者の立場・視点で考えることに加えて、愛情をもって思考・行動することが求められる。
1996年4月、当協会(JFMA)の欧州FM事情研究調査団で、当時世界の空港ランキングNo.1との呼び声の高かったオランダのスキポール空港を訪問した際、“ホスピタリティ”という新鮮な言葉を耳にした。これからのFMは、不動産や建築の視点だけではなく、サービスやホスピタリティの視点が大切になると聞き、空港内に、ホテル、貸会議室、育児室、ゲームセンター、フィットネスセンター、ゴルフ練習場、カジノ、そして礼拝場まであることを紹介された。私がとくに印象深かったのは、あらゆる宗教の方がお祈りできる“礼拝室”の存在である。宗教の多様性にも配慮している姿には、まさにホスピタリティ精神を肌で感じた。日本でも、それから20年近く経過した2014年3月に羽田空港の国際線旅客ターミナルに小さな祈祷室ができ、成田空港や関西空港でも同様な施設ができた。幸いなことに、最近では日本の空港も、安全・清潔・サービスなどのホスピタリティ面にも力を入れている。
オランダのホスピタリティFMについては、同じく「BUILT」上でファシリテイメント研究所 熊谷比斗史氏が連載している【欧州FM見聞録】に詳しいので、そちらを参照されたい。
元来、ファシリティマネジャーとは、自社内(インハウス)でFMの業務を行う人を意味する。設計・施工の視点から見ると、発注者の窓口になる人たちである。しかし、近年ではFMの業務をアウトソーシングする傾向が増加し、IFM(Integrated Facility Management)と称して、FM業務を総合的に外注化する例も増えている。この場合、アウトソーシング先の人々もファシリティマネジャーと呼称する。自社内には最小限の責任者としてのファシリティマネジャーを残し、アウトソーシング先のファシリティマネジャーをパートナーとして協業し、FM業務を合理化・効率化し中核業務へ集中するという事例も増えている。
ファシリティマネジャーは、実在する人物で語った方が分かりやすい。次回は、建築家から見事に国際的なファシリティマネジャーになり、経営者としてもすばらしい活躍をされた類まれな方を紹介しよう。
★連載バックナンバー:
『いまさら聞けない建築関係者のためのFM入門』
■第3回:FMはどこから来たのか、そしてFMを学ぶには――(下)
■第2回:FMはどこから来たのか、そしてFMを学ぶには――(上)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 【新連載】「不動産テック市場の行方」不動産業界のDXは35年前から始まった――
近年、急成長を遂げる“不動産テック市場”。非対面・非接触での営業や契約締結、VRでの物件内見、スマートロックなどの新しい不動産テックサービスが次々と登場し、不動産業界にもデジタル変革の波が押し寄せています。本連載では、不動産テック市場を俯瞰的に見ながら、延期が決定した東京五輪の影響やCOVID-19で意図せず普及が進む“リモートワーク”に伴う市場変化などを織り交ぜ、足元の不動産テック市場の現況と今後の見通しをアットホーム 原雅史氏がレポートしていきます。連載第1回では、不動産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)が約35年前から始まっていると言われていることを踏まえ、戦後を出発点にした不動産業界のDXがこれまでどのように発展してきたかを振り返ります。 - 【新連載】サステナビリティと循環型社会形成は会計・税務では不可能!建設業の打開策を説く
本連載では、建物の大規模修繕工事で生じる会計学や税法上の問題点やその解決策を千葉商科大学 専任講師 土屋清人氏(租税訴訟学会 常任理事)が分かりやすくレクチャーする。 - 欧州のFM最新潮流を知る「IT化によるイノベーションの時代へ」
本連載では、ファシリティマネジメント(FM)で感動を与えることを意味する造語「ファシリテイメント」をモットーに掲げるファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクターの熊谷比斗史氏が、ヨーロッパのFM先進国で行われている施策や教育方法などを体験記の形式で解説する。第3回は、2010年代から現在にかけて欧州のFM業界で起きた働き方改革やITの活用を採り上げる。 - 施設業務を止めず保全工事を行う日本メックス、高い技術力を支える充実の“人財育成術”
日本メックスは1972年の創業以来、建物の維持管理・保全工事を数多く手掛けている。豊富な実績を支えているのは、他ならぬ高度な技術や知識を持った人財の育成にあり、現在では4種類の社員教育をはじめ、品質向上と事故撲滅を目的とした自社トレーニング施設を運用するなど、充実した人材育成術を確立している。