【第5回】日本のBIM先駆者が指摘する「日本の施工BIMは、ここに問題アリ!」(後編):BIMで建設業界に革命を!10兆円企業を目指す大和ハウス工業のメソッドに学ぶ(5)(2/3 ページ)
他社に先駆け2020年の4月から“施工BIM”に取り組んできた大和ハウス工業でも、施工領域での全社展開は、スムーズには進まなかった。その原因を思案するうち、多くの方が頭の中に思い描く、「施工BIMの本質」が間違っていたのではないかという考えに行き着いたという。連載第5回では、前回に続き、同社技術本部 建設デジタル推進部 次長・伊藤久晴氏が施工BIMの課題を探り、その先にある施工BIMのあるべき姿を全社展開の具体的な手法を紹介しつつ指し示す。
「納まり調整で施工の手戻り低減」が期待できる効果で最多
コンプリーションミーティング(現場終了後の会議)参加者へのアンケート結果が下記である。アンケートの中で、施工BIMによって今後期待できる効果の設問では、「納まり調整で施工の手戻り低減」「整合性の高い投入図」が突出して高く、「施主満足度の向上」や「受注への貢献」などの回答も多かった。逆に、「原価の低減」や「現場災害の減少」といった安全面は、あまり評価されていない。
このBIMプロジェクトでの取り組みは、有意義なものだったが、補助金の支給や本部担当者の手厚い支援があったからこそ、完遂することができたのだと考えらる。
施工段階でのコーディネーションミーティングで、納まりの問題が発見できることは、早期の問題発見に役立つこともある。しかし、そのために統合モデルを作り、干渉チェックを行い、コーディネーションミーティングを実施するといった手間をかけられるのは、プロジェクト物件でなければ現実的では無いと思う。
一般的な業務では補助金の支給もなく、本部担当者の支援もあまり無い。そのような通常業務の中で、施工BIMで目に見える成果を出すためには、会社としての施工BIMに向けた仕組み作りをしなければならない。現に、この物件の施工BIMマネジャーでも、次の物件ではBIMモデルを作る者がいなかったため、施工BIMに取り組むことができてない。
なぜ日本の施工BIMがダメなのか?
これまでの施工BIMの取り組みから、施工でBIMを活用すれば、確実に効果があることは判明した。しかし、技術的には見込みがあるが、仕組みづくりが伴わず、現実には全社で展開する段階に進めることは叶(かな)わなかった。
現場の担当者が自らRevitを使え、主体的にBIMを進めることができるようにならないと、効果を出すことができない。なぜなら、現場の作業は日々変化するので、それに対応する必要があるし、現場は規模や用途が異なるので、現場それぞれに合わせたBIMモデルの活用方法を、現場管理者が見つけ出さなくてはならないからである。
しかし、現場管理者がBIMを使うことを業務とするためには、施工図や施工計画図を作る業務だけでは難しい。現場担当者の仕事は、施工図や施工計画図の作成ではなく、現場を管理することであり、QCDSE(品質・原価・工程・安全・環境)を守ることである。
そう考えるとRevitで施工図・施工計画図を作る能力は、現場監督の仕事を楽にすることにはならないだろう。それでも、現場監督にRevitを使えるようになれというからには、理由が必要だ。
施工BIMは、QCDSE(品質・原価・工程・安全・環境)の管理につながるものでなければならない。そのためには、施工図や施工計画用のBIMモデルは、BIMでQCDSEを実現するための「器」と捉えるべきだ。そう考えると、器の上では必然的に、BIMからQCDSEへと橋渡しする仕組みが求められる。例えば、「クラウド型の工程表作成ツールによるBIMデータとの連携で、4Dを実現する」などが想定されるだろう。
この施工BIMの本質につながる取り組みが進めば、施工においてもBIMモデルを中心に仕事を進めることができる。施工図や施工計画図、干渉チェックなど、BIMでできそうなことだけを行っていても、なかなか全社展開には至らない。
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