【新連載】日本のBIM先駆者が警鐘を鳴らす「なぜ日本のBIMはダメなのか?」:BIMで建設業界に革命を!10兆円企業を目指す大和ハウス工業のメソッドに学ぶ(1)(2/3 ページ)
日本の建設業界は、低い生産性、労働者の老齢化、多くの労働災害など、市場が破綻しかねないほどに深刻な問題が目前に迫り、一刻も早く手を打たなければならない局面に差し掛かっている。特効薬となるのが、BIMとそれを核に据えたICT活用だと、今では多くの業界人が知るところだが、建設の全工程で実践活用できている企業はほぼ皆無と言えよう。2020年度に全物件で“設計BIM化”の大望を抱く大和ハウス工業で、日本のBIM開拓の一翼を担ってきた同社技術本部 BIM推進部 次長・伊藤久晴氏が、BIMを真に有効活用するための道標を示す。
着工後でも設計が終わっていない!
時間集計によって書いたのが下記のグラフである。この物件では、残念なことに、着工後にも設計作業が追い付いていないという状況だった。設計作業が完全に終わらないままに、着工するとどのような影響が後工程に起きるだろうか?
この「マクレミー曲線」に、鉄骨の情報加工に関わった人工数を重ねてみたのが次の図である。すると、建方が終わっても、鉄骨の情報加工の作業が終わっていないことが分かった。これは現寸検査での未決事項が解決しないままに、建方をせざるを得なかった箇所があったからである。
すると、建方が終わっても、鉄骨の修正や鉄骨部材の取り付けのために、現場溶接工が竣工間際まで必要になった。つまり、設計作業の遅れが、後工程や工事費にまで影響を及ぼしている。設計作業が予定通りに進まない原因は、設計担当者だけの問題ではない。ただ、未決事項が後々まで残っていればいるほど、コストや工期に影響を与えるということは明らかである。
このような物件は特異なもののように思えるが、実際は工期も工事予算もほぼ予定通りに納まっている。なぜだろうか?つまり、設計作業が遅れても、現場で何とかするというパターンで、結果良ければ全て良しという現場頼みのフローが常態化している。
もし、設計作業が前倒しに行われていたなら、現場でこんなに苦労することはなかっただろう。しかし、設計作業というのは、性能や法規を満たすことができていれば、仕様が決まってなくても、納まってなくても、現場がなんとかしてくれるというのが、日本の伝統的な建設工事の実情だったりする。
海外のBIMの資料を見ると、BIMによる生産性向上の効果として、工事費の削減や工期の短縮などが報告されている。このような効果は、着工後の変更にも対応するコストや工期の余裕を削ることで生まれているのではないかと推察する。
急な設計変更が発生した場合は、RevitなどのBIMソフトでは、モデルを修正した後で図面を修正する2度手間が生まれるので、その場で線と文字を修正する2次元CADの方が手っ取り早い。つまり、フロントローディングによって、設計作業を前倒しにすることによって、BIMは効果を発揮するが、後工程で変更を繰り返す際は、BIMモデルの修正が追い付かず、2次元CADで処理しないと間に合わないという本末転倒な事態が発生する。
当社でも施工図を「Revit」で書いていても、変更などに追い付かず、最後は2次元CADで無理やり対応するというケースが多かった。Revitで施工図を描く技術は、既に確立されている。しかし、フロントローディングを可能にする業務ワークフロー自体が変わらなければ、大きな成果にはつながらない。
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