莫大な負債からの再起をFMで、神奈川県住宅供給公社が明かす賃貸住宅の“有機的”なワークフロー:JFMA賞2020「神奈川県住宅供給公社編(上)」(3/3 ページ)
神奈川県住宅供給公社は、1991年のバブル経済崩壊を機に、経営が立ち行かなくなり、多額の負債を抱える事態に陥った。再起をかけ、ファシリティマネジメントを導入した結果、目覚ましい成果を上げ、事業継続の一助とした。今回、起死回生の取り組みとなったFM活用事例を紹介する。
FMで有機的な業務フローを構築
経営理念の決定後、神奈川県住宅供給公社は、施設管理などで必要な各業務をひも付けるFMを導入した。同時に、PDCAサイクルを全業務に取り入れ、予算管理と各作業の連携を深めた。
猪股氏は、「FM導入前は全ての仕事が結びついておらず、“無機的”なワークフローだった。各業務部門が縦割りになっており、従業員が担当する職務以外に無関心で、無責任な姿勢が常態化していた。結果として、緊急時における対応の遅れやノウハウ継承の断絶、外部業者との情報共有において遅延が発生していた。加えて、コールセンターを外注していたため、顧客ニーズの把握が困難で、画一的な広告や旧態依然とした賃貸プラン作りしか取り組めなかった」と述懐した。
FMの中心には、運営する賃貸住宅延べ371棟1万3500戸に及ぶ各部屋の契約者に関する情報や賃料、修繕履歴などを網羅したデータベースが配置された。猪股氏は、「データベースを基点に、全業務を有機的につなげるとともに、統合管理を実現し、従来の厄介事を全て取り払った」と話す。
続けて、「コールセンターを内製化し、直接顧客からのニーズを収集できるようにし、広告告知の成果判断がスムーズになった」と述べた。
FMを組み込んだワークフローを構築した成果について、猪股氏は、「2018年度実績で、前年度と比較して、問い合わせ件数が43%増加し、売上(家賃収入)が0.5%上昇した。内製化したコールセンターの安定稼働やデータに裏付けされた企画機能の強化が功を奏したと考えている。入居促進業務と平行し、管理会社との協力体制強化による高齢者などに対する安否確認の迅速化やトラブルへの適切な応対といった間接的な効果も多数出てきている」と解説した。
今回公社で整備したFMのこれからの展開としては、棟および住戸単位の精微な修繕関連情報の集積や経験値の蓄積と可視化、計画修繕などの中長期的な投資計画への活用に加え、自治会や住民からのアナログ手法による情報収集の継続も活用して、公的賃貸住宅事業での水平展開可能なFMモデルを目指す方針を示した。
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