莫大な負債からの再起をFMで、神奈川県住宅供給公社が明かす賃貸住宅の“有機的”なワークフロー:JFMA賞2020「神奈川県住宅供給公社編(上)」(2/3 ページ)
神奈川県住宅供給公社は、1991年のバブル経済崩壊を機に、経営が立ち行かなくなり、多額の負債を抱える事態に陥った。再起をかけ、ファシリティマネジメントを導入した結果、目覚ましい成果を上げ、事業継続の一助とした。今回、起死回生の取り組みとなったFM活用事例を紹介する。
人口減少と超少子高齢化が加速
「2013年の長期経営計画発表後に推進したFMでは、神奈川県内の団地を取り巻く環境の変化を踏まえている」と猪股氏は話した上で、県内の団地で深刻化する問題について解説した。
県内の団地では、「人口減少」「超少子高齢社会」「核家族化」を主因に、さまざまな悩みの種が生まれている。社会保障・人口問題研究所の資料「日本の地域別将来推計人口」によれば、神奈川県の人口は、2045年に2015年比で82万人減の831万人になる見通しで、人口減少に歯止めがかからない状況だ。
神奈川県住宅供給公社の実態調査では、運営する賃貸住宅に住む世帯主の平均年齢が1992年は46.1歳だったが、2015年は62.3歳になり、居住者全体のうち、65歳以上の世帯主が54.3%を占めていることも分かった。急速な高齢化の進行に基づく、コミュニティーの衰退による孤立死対策を講じることが急務になっていた。
団地内の高齢化が加速する要因として、団地完成時に住み始めた家族世帯の子供が学業修了に伴い、独立したことも挙げられた。同公社の賃貸住宅は、全体(371棟)のうち、25%(92棟)が築年数50年を超え、建物や設備の老朽化が顕在化しており、建て替えやリノベーション、大規模修繕が求められている。この他、神奈川県の資料によれば、県内の空き家数は2013年時点で49万戸で、空き家率が11.2%に達しており、空き家を埋めていくことも県内の重要事項となっていた。
神奈川県住宅供給公社は、山積する不安材料を考慮し、経営理念を「ソーシャルエンタープライズ」と定めた。猪股氏は経営理念について、「ソーシャルエンタープライズには、社会的問題を解決し、公共福祉を行うことを目的として収益事業に取り組み、利益を再投資して、社会に還元するという思いが込められている」と語った。
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