3.11復旧工事など災害対応で活躍したCIM、岩手・地方建コンの奮闘:Autodesk University Japan 2019(6/6 ページ)
建設コンサルタント業務を手掛ける昭和土木設計は、2014年からCIMへの取り組みを進めてきた。その取り組みの成果が橋梁設計における「3D完成形可視化モデル」だ。ドローン(UAV)を使って3D空間の計測データを取得。このデータに基づき3Dの地形モデルを作成し、3次元の設計モデルと連携・統合することで、関係者間の情報共有の精度を高めた。
CIMによって設計者と施工者間の理解が深まる
これらの取り組みを通して、佐々木氏は「設計と施工の距離が縮んできている」と話す。これまでの業界では、設計と施工が分離していたが、BIM/CIMや i-Constructionが普及していく中で、「デザインビルド」などの設計者と施工者が互いの知識を持ち合い協力し、効率化を図る動きも出てきていると実感している。
昭和土木設計の3Dモデル作成のワークフローについては、「3Dモデルを作成して提供するだけでなく、利用後も使えるデータの作成に気を付けており、顧客ごとに3Dモデルの使用環境や保有ソフトのヒアリングも実施している。場合によっては業務の際に3D設計研修として、施工側の技術者を当社に迎え、一緒に3Dデータの作成を行ったりしている」と語った。
工事で使用する各図面が、整合性が取れていない精度が低いものが多いことも問題とした。佐々木氏は「実際に2D図面から3Dモデルにしたときに寸法や勾配のおかしい図面がまだ多い。先ほど申したような線形計算書と平面図が合わないことなどが多々ある」と話す。
「だが、BIM/CIMの取り組みが進み、設計側が3Dデータを作成するようになり、この不整合に気付くことになれば今後解消に向かうだろう」と展望を明かした。
データの運用サイクルについては、「今の段階では各フェーズで必要なデータを作成しているため、一気通貫で利用できるデータにするのはまだ難しい。問題解決の糸口につながると考えられるのは現在国交省で実装に向けて取り組みが始まった“パラメトリックモデル”だ。パラメトリックモデルは、製造業では当たり前のように使われており、むしろ使用していないと3DCADではないと言っても良い。パラメーターを変更して形状を変更できるような作り方をするので、そもそもの考え方が違う。パラメトリックモデルが実現すればBIM/CIMが目指しているデータサイクルの実現が早期化すると考えている。当社もAECコレクションはもちろん構造物のパラメトリックなモデリングを行うために、“Inventor”などが含まれている製造業向けのコレクション、PDMコレクションも併用している」と述べた。
さらに、建設業で2DCADがまだ標準であることも問題視した。「2DCADは、手書き製図をデジタル化したもので、設計手法などは2DCAD以前のドラフターによる手書き製図と変わらない。一方、3DCADは設計、製造など後工程のデジタル化を目的にしている。図面を書くことが目標ではない。そのため製図の目的の延長線上にあるのではなく、設計対象物をどのように活用するかを考えて使う必要がある。3DCADは、ミスが無いことを確かめる照査はもちろん大事だが、設計のアプローチや考え方を添えて、使途のために使いこなすことで非常に強力なツールとなる」(佐々木氏)。
講演の最後では、作成した3Dデータを維持管理に活用していくことの重要性を説いた。佐々木氏は「維持管理はインフラの情報を一元化したデータベースを利用する。そして、改修工事などの調査時や設計時、施工時には課題をそのデータベースを基にさらに検討する。BIM/CIMはこういったデータサイクルをこういった使い道ができる。データサイクルのために何が必要なのか考えることこそがBIM/CIMの根底にあることだと思う」とまとめた。
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