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付加価値を生む建物改修には何が必要か?丹青社の「ミライザ大阪城」から学ぶ住宅・ビル・施設 Week 2019(2/3 ページ)

ディスプレイ業大手の丹青社は、「住宅・ビル・施設 Week 2019」の基調講演で、にぎわいや売れる空間づくりには何が必要かを、「JR大阪三越伊勢丹」や「ミライザ大阪城」のリニューアル事例から考察した。

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マーケティングだけでは見えなかった「ミライザ大阪城」の魅力

 実際のデザイン手法としては、「ミライザ大阪城」のリニューアルを例に、万井純氏が解説した。

 ミライザ大阪城は、1931年(昭和6年)に建設された陸軍第4師団司令部庁舎だった建造物をリニューアルした商業施設。庁舎は戦後、一度はGHQの管理下に置かれた後、大阪府警や大阪市立博物館として利用されてきた。博物館が閉館した後は、約16年放置された状態が続いていたが、公募によって5社から成る「大阪城パークマネジメントJV(共同事業体)」が管理会社となり、複合商業施設として生まれ変わることになった。


「ミライザ大阪城(MIRAIZA OSAKA JO)」の正面 出典:大阪城パークマネジメントJV

 万井氏は、リニューアルプロジェクトを進めるにあたり、何をすれば建物の価値が高まり、にぎわいが出せるのかを模索したと語る。そして、「食」を通じて場の魅力を向上させる方針に決めて企画を練り、設計とデザインを並行して進めることにした。

 ミライザ大阪城は、大阪城公園内の大阪城天守閣の隣に位置する。「改修以前の大阪城公園にもそこそこのにぎわいはあったし、一般的なマーケティング手法で調査を行うと、それなりの良好なデータが集まってくる。しかし、現地に足を運ぶと、定量的なデータからは見えてこない、空間や公園の使われ方といった現状やポテンシャルが浮かび上がった」(万井氏)。


大阪城公園内に位置する「ミライザ大阪城」 出典:大阪城パークマネジメントJV

 ミライザ大阪城は、尊厳さを感じさせる存在感のある建築物の雰囲気を残したままリニューアルされた。万井氏が担当したのは主に「食」に関する部分だったが、「天守閣に手が届くような近さがあって、非常に驚いた」と話す、屋上の魅力にも気づいた。

 そこで、万井氏は当初は使う予定のなかった屋上を整備することを提案。展望カフェとし、今では大阪城を背景に食事とアルコールが楽しめる非日常の空間として、多くの利用者を楽しませている。


左が2階の「crossfield with TERRACE LOUNGE」、右が屋上の「BLUE BIRDS ROOF TOP TERRACE」 出典:大阪城パークマネジメントJV

 ミライザ大阪城は、皇室の方々が利用する貴賓室を備えるような重厚な建築物がベースとなっている。全体的な再整備の方向性も、比較的ラグジュアリーをキーワードとしたマーケティング戦略に沿う形となった。しかし、万井氏はPFI※1事業であるがゆえ、「“国民のため”みたいな大義がどうしても残ってしまい」ターゲットを絞り切れなかった側面もあると指摘する。

 そこで万井氏は、コース料理のレストランだけではなく、アラカルトが楽しめる店の需要もすくい取る“幅”を用意した。また、カジュアルダイニングでは、耐震補強のブレースをあえてむき出しにして、古い建物で食事をすること自体を楽しむようなスタイルも提示した。

 他にも、レストランのキッチンをオープンキッチンとし、廊下にせり出させることでキッチンの活気を廊下に伝えるアイデアやコース料理もストーリー性を考慮したものとすることを試みた。

※ PFI(Private Finance Initiative):民間の資金・経営能力・技術的能力を活用して公共施設などの建設・管理・運営を行う手法

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