なぜドアメーカーが受注依存型のビジネスモデルから脱し、売上100億円を達成できたか?:“ハイドア”の先駆者に聞く「シュリンクする住宅市場で生き残るには」(4/4 ページ)
ここ数年、建具の市場で人気の高い、天井までの高さがある“ハイドア”。アイカ工業、パナソニック、LIXILといったメーカーも、次々と高さのあるドアを開発し、ハイドアのマーケットは拡大を続けている。戦前から神奈川県横浜市に本社を置く、神谷コーポレーショングループは大手メーカーに先立つこと、2005年に主力製品となるオリジナルブランド「フルハイトドア」を立ち上げ、業績を10年で約7倍にするなど、この分野の第一人者ともいえる確固たる地位を築いている。次の戦略では、ARサービスやIoTドアなど、これまでにないハイドアの提案も視野に入れる。
IoTをハイドアに組み合わせ、新たに用途展開を見込む
社内の意識改革により、他社であれば、おおよそ2年ほどかけて1枚の新作ドアの発表に漕ぎつけるが、当社では1年間に数枚ずつラインアップを拡充している。2019年11月にはドバイの展示会で、海外向けにワニの本革を使った900万円以上するハイグレード品を出品する予定だ。
――フルハイトドアの次の一手
神谷社長 ドアにIoTを組み合わせて情報を取得できるようにすれば、今までにないドアの使い道が広がるはずと思い付いた。現在、Wi-Fiを搭載したAndroidタブレットをフルハイトドアに組み込んだIoTドア「フルハイトミラオス」を開発中だ。家の中でデッドスペースになってしまっているドアの前に立つと、Androidアプリが動作し、自分の後ろ姿をドアのディスプレイに映し出して確認できる“遅れ鏡”やスケジュール管理の表示など、開け閉めだけではない、さまざまな使い方が可能になる。
当初は、ジャパンディスプレイと共同で、2018年8月にプロトタイプを発表したが、その後当社単独で2019年内の販売に向け、いくつかの機能バリエーションを想定しながら、実用化の検証を進めている。
また、サービス面では、AR技術を用いてフルハイトドアを体感できる無償のスマートフォンアプリ「どこでもフルハイトドア」の提供も2014年から始めている。これまでに、3000回以上ダウンロードされており、ビルダーが提案してもこれまではサンプルを持っていけなかった自宅に居ながらにして、実物大のフルハイトドアをバーチャル体感してもらっている。画面のタップだけで、色やデザイン、ガラス、ドアノブの検討の他、ペットドアで動物がくぐる様子もCGで体感することが可能だ。
いざ、見積もりという段階になったら、Web上で顧客自ら画像を選択するだけで、見積もりを作成するWeb受発注システム「カムイ」も既に運用。今では、見積もり依頼の8割を占めるほどに利用されている。発注忘れ防止のアラートが設定できる納期管理機能やプレゼンボード出力、ARアプリとの連動機能も備える。
――これからのハイドア市場
神谷社長 2019年10月には消費税増税が決まっているが、住宅市場は政府の対策によっておそらく1〜2年ほどは横ばいで推移するかもしれないが、その先、2030年ごろには、大工不足や空き家の増加などもマイナス要因となり、新築の需要は大幅に落ち込むことが予想される。
その時にどうあるべきか。今までのように量を追求するから人工が足りなくなるのであって、質を上げていかねばならない。価値の高い住宅を提供できるビルダーだけが生き残れる時代になるはず。
当社では、これからの多様な寸法やデザインといったニーズに応えられるように、海外研修も含め、社員の柔軟な思考力を鍛えるトレーニング機会を与えている。
ビルダーに関しても、Web上でフルハイトドアを採用している工務店300社を紹介しており、このうち180社は住宅の販売単価が上がったと聞く。いかに付加価値を提供できるかが、これからの市場で勝つためのカギとなるはずだ。
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