建設現場の“ムダ・ロス”解消には何を成すべきか?:建設現場におけるBPR(業務改善)の必要性と実践ポイント(2)(2/2 ページ)
ここ数年、ICTの著しい発展によって建設業界でも、その有効な活用方法が設計・施工・維持管理の各工程で検討され始めている。新たなソリューションを導入するには、さまざまな既存の壁が立ちはだかり、ときには既存の業務形態を変革することも迫られる。ビジネスルールを抜本的に設計し直す「BPR(Business Process Re-engineering)」。建設業界で導入することによって何が変わり、そのためには何をすべきか、プロレド・パートナーズが数々の建設会社でBPRをコンサルしてきた実績をもとに、本連載で解説していく。
実践ポイント3 「フロントローディング&ワークシェアリングで対策する」
建設現場における作業量は、工事開始直後と工事終了間際に極端に負荷が集中し、現場への人の出入りも激しくなる。この作業量を曲線で描いたものを、現場では「M字カーブ」や「鬼の角」と呼ぶが、この曲線のピークに合わせて要員を確保している場合が多いため、どうしてもピーク以外の期間は手空きが発生するという問題がある。
ここでも、M字カーブや鬼の角が建設現場では当たり前であると思い込んでいる限り改善は進まない。作業量曲線のピークを削って平らにしていくための考え方を、2つ紹介したい。
1つ目は、「フロントローディング」である。端的には「前倒しできる仕事はできる限り前に持ってきてピークを削減しよう」というものだ。
代表的な施策例を以下に挙げるので改善のヒントとしていただきたい。
・施工図作成へ早期に着手できるよう、設計図の精度を向上させる
・資材業者への内示精度を高めて、あらかじめ発注を行っておく(予約発注)
・資機材の単価契約を拡大して、都度見積もりや都度契約業務を削減する
・外注業者に先々の工事情報を共有して、要員を確保する
2つ目は、「ワークシェアリング」である。これは、現場でしかできない仕事だけを現場に残して、それ以外の仕事は外に出す、または役割分担を見直して自社他部門に割り振るというものだ。
こちらも代表的な例を以下に挙げるので改善のヒントとしていただきたい。
・施工図のたたき台は設計部で作成し、仕上げを現場で行う
・安全や環境に関わる現場作成書類を本部に移管する(シェアード化)
・施工計画をテンプレート化してたたきき台を本部で作成し、仕上げは現場で行う
・各現場で行っていた資機材発注を本部の調達部に移管する
「フロントローディング」と「ワークシェアリング」は、どちらも作業量の見える化が出発点となる。誰が(どの職種)が、どのタイミングで、どんな作業を行っているかを把握し、作業量曲線とピークを明らかにした上で、今回紹介したような施策を検討していくとよい。
実践ポイント4 「オペレーション管理を強化して高いパフォーマンスを引き出す」
当社が現場を訪問した際に「計画は作っていますか?」「進捗管理は小まめに行っていますか?」と質問すると、大半は「ウチの職人は精鋭ぞろいだから指示しなくても大丈夫」とか「長年やっているプロなんだから、各自の裁量に任せているよ」という答えが返ってくる。
残念ながらこの回答は、オペレーション管理の基本となる「作業計画」と「作業統制」を放棄しているということに他ならない。作業計画と作業統制は、良い仕事を行うための基本である。
計画なき作業は多くのムダ・ロスを発生させるし、統制を怠ることはムダ・ロスを放置しているともいえる。また、計画が不十分だと、改善活動で得られた成果の振り返りも漠然としたものになり、いつの間にか元の状態に戻ってしまう危険性も高い。
「できる現場」はこの計画と統制が実にうまい。高いパフォーマンスを発揮している現場ほど、オペレーション管理(計画・統制)がしっかり行われている。当社がこれまで見てきた現場でも、このオペレーション管理の巧拙で作業効率が1〜2割は違ってくる。
下図にオペレーション管理の原理原則を示した。ぜひ、この機会にでも自社のオペレーション管理がどのように行われているかを確認し、原理原則と照らして見ることをお勧めする(図6)。
次回は、現場の理解を得て、建設BPRを上手に推進するために必要なポイントをお教えする。
著者Profile
紫牟田 涼/Ryo Shimuta
大手メーカーにて、生産技術、生産管理に従事。その後、SCMに強みをもつ総合コンサルティング会社にて、製造業、建設業、流通業、公益企業など、幅広い業界を対象に、ビジョン・事業計画の策定、各種施策の実行に従事し、取締役 統括本部長を歴任。プロレド・パートナーズ参画後は、BPRとSCMを中心としたコストマネジメント案件を手掛けている。
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