屋上に設置するだけ、中低層ビルにも範囲を広げた鹿島の制振装置「D3SKY-c」:耐震・制震・免震(1/2 ページ)
鹿島建設は、超高層ビル向けの超大型制震装置「D3SKY(ディースカイ)」を改良して、新たに中低層ビルを対象にコンパクトで低コストの「D3SKY-c」を開発した。既に、宗家源吉兆庵の9階建て銀座新本店や芝浦グループの10階建て銀座ビルといった中層建築の新築工事での適用が決まっている。
鹿島建設は、超高層ビル用の制震装置「D3SKY」に改良を加え、性能はそのままに小型化・低コスト化を図り、中低層を対象とした制震装置「D3SKY-c」を開発した。
屋上に設置するだけで済み、既存中低層ビルの制震リニューアルに有効
背景には、大規模な自然災害の多発を受け、近年は超高層だけでなく、中低層の建物にも、安全性への要求は一層高まっていることがある。一方で、高さ30〜60m(メートル)の中低層建物は、敷地面積の制約から間口が狭い建物が多く、既存の制震装置ではその大きさなどから設置スペースが限定され、有効床面積が減少するなどの問題点もあり、十分な地震対策が講じられていないことが多い。
その点、改良したD3SKY-cは、屋上に設置するだけで済み、既存建物の制震リニューアルにも有効で、テナントが入居したままの施工で耐震性の向上が実現する。今回、D3SKY-cを開発したことで、これまでの超高層だけでなく、中低層建物にも適用範囲が広がった。
D3SKYの名称は、Dual-direction Dynamic Damper of Simple Kajima stYle(鹿島式2方向制御動吸振器)の略。D3SKY-cの末尾「c」には、compact、customized、concrete-made、cost-consciousの意味が込められているという。
D3SKY-cの主な改良点は、錘を鉄板製からコンクリート製に替え、低コスト化を図った。従来のD3SKYは、超高層で分割して揚重しやすい鉄板としていたが、中低層は既存建物でも屋上のコンクリート打設は容易なため、コンクリート製を採用した。
また、錘の揺れを建物の揺れる周期に同調させる必要があることから、錘の支持機構も見直した。D3SKYは、ワイヤ懸垂式だが、中低層建物は揺れる周期が短いため、錘の周期を同調させようとするとワイヤの長さが短くなり過ぎ、錘を十分な範囲で動かすことが困難となる。
そこで、新たに中空の積層ゴムを東京都市大学の西村功教授と共同開発した。市販の免震用積層ゴムでは堅すぎて十分な性能が得られなかったため、小型で大変形を許容できる中空の積層ゴムとし、モルテン社の協力のもと製造する。
設計想定を超える巨大地震時への対応では、あらかじめ定めた速度を超えると抵抗力を急激に増大させ、錘の動きを安全に制御する独自技術の「高機能オイルダンパー」を採り入れている。しかし、高性能オイルダンパーは、油圧機構が複雑なため、装置自体が大型化するという問題があった。
解決のため、センクシア社と共同で、複雑な油圧機構と同等の性能は保持しながら、シンプルな制御バルブを開発。この新型オイルダンパーは、超高層用D3SKYにも適用することができる。
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