「逆さ富士」を実現した施工BIM、成功の鍵は設計データの精査:BIM/CAD(3/3 ページ)
2017年12月に完成した「富士山世界遺産センター」。「逆さ富士」を表現した木格子が目を引く同センターの施工にはBIMが導入された。複雑な意匠を表現するために、どのようにBIMを活用したのか。施工を担当した佐藤工業とシンテグレートに聞いた。
パラメトリックモデリングで設計変更に柔軟に対応
展示棟内部のスロープについても、施工BIMを行う上で大きなポイントとなったのは幕板の曲面をどう再現するかという点だ。「スロープの形状はかなり複雑で、そのままでは全て異なる大きさ・形状の幕板を製造しなくてはならなかった」(渡辺氏)
そこで木格子と同様に、もとの設計データを分析・解析し、部材の製造や施工を考慮して最適化したモデルを作成。具体的には、「この程度だったら現場で押し曲げて施工できる」という現実的な曲率を持つモデルまで最適化した。
スロープ部分のBIMモデルを作る上で、もう1つの課題となったのが、スロープに沿って設置される手すりの部分だ。設計データを関係企業でやりとりする中で、スロープの形状について設計変更が発生した場合、そのままでは変更に合わせて手すりの部分の設計データを再度モデリングし直す必要が生まれてしまう。そこで、手すりの設計データについてはスクリプトを組み、スロープ部分の設計を変更すると、それに追従して手すりの形状が自動的に変更されるようにした。
この他、3D EXPERIENCE上で、鉄骨構造と木材の干渉チェック、設備の検証なども実施。これらの取り組みによって、無事に当初の工期・予算通りに完成にこぎつけた。
施工BIMを実現する上では、設計データを詳細に解析・検証し、施工手順や部材の製造に配慮した最適なデータをつくることが重要な鍵であることが分かる。一方でシンテグレートの渡辺氏は、今回のプロジェクトの施工BIMについては、さらなる改善の余地があったと話す。例えば、木格子の組み立て作業では、一度組んだ部材をばらすなど、手戻りが発生したという。「木格子を取り付ける壁面が完成した段階で、一度レーザースキャンを行って取り付け面の3次元データを取得し、その情報を部材のモデルにフィードバックするといった作業が円滑に行えれば、さらにコストを削減できる可能性もあった」(同氏)
佐藤工業の平野氏は「今回のBIMの導入では、大きな成果が得られたと感じているが、施工シミュレーションは実施できていないなど、まだ十分にBIMの情報を生かし切れていない部分もあったと感じている。今後のプロジェクトにも今回の経験を生かし、積極的にBIMに取り組んでいきたい」と期待を語っている。
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