カギは省エネ技術の再活性化、避けられない電力消費抑制の動き:省エネ機器(4/4 ページ)
電力システム改革や再生可能エネルギーによる分散型エネルギーシステムなど電力を取り巻く環境は大きな変化を迎えている。しかし、その一方で停滞しているとみられるのが使用電力の削減である。ただ、国際的な地球温暖化対策への要求が高まる他、各種規制もさらなる強まりを見せる中で「省エネ技術」のさらなる進歩は必須となりつつある。
都市型ZEBを実現した大成建設の実証棟
ZEBやZEHは現在さまざまな実証が行われているが、より技術的な実現が難しいとされているZEBで、さらに都市において狭小エリアでZEBを実現できると証明したのが、大成建設のZEB実証棟である。2014年6月から1年間の実証を行い、その結果、年間のエネルギー消費量が1平方メートル当たり463MJ(メガジュール)、創エネルギー量が同493MJとなり「年間のエネルギー収支ゼロ」を達成した。都市部にある建物単体のZEB達成は国内初の事例になるという。
建物のエネルギー消費量75%を削減する「超省エネ技術」と、残りのエネルギー消費量25%を賄う太陽光発電による「創エネ技術」を1年間に渡り運用・実証し、これまで困難とされていた都市部のオフィスビルでもZEB化が可能なことを立証した(関連記事)(図8)。
この大成建設の実証棟では、高度な省エネ技術を組み合わせて、大幅な省エネ化を実現している。
照明面では、低照度タスク&アンビエント照明システムを採用。タスク&アンビエント照明システムとは、オフィスにおける、実際の作業領域(タスク)と、周辺領域(アンビエント)を分けて明るさを制御することで、空間全体を明るくする従来の照明システムに比べて、省エネ化を図るというものだ(図9)。
同システムと組み合わせる形で、自然光を天井面に照射し、まぶしさを抑えつつ室内の明るさを向上させる固定式自然光採光システム「T-Light Cube」や、明るさセンサーにより自動で照明の明るさを制御する無線照明制御システム「T-Green Wireless」、人検知センサーなどを活用し、省エネ化を進めたという。
空調面でも、照明と同様、排熱利用型のタスク&アンビエント空調システムを採用している。燃料電池の低温排熱を有効利用し、吸着式冷凍機で冷水を製造。躯体放射空調をアンビエント空調として実現した他、個別のタスク空調については、パーソナル空調ユニットにより在席情報と組み合わせて制御し、省エネ化を実現する。また、自然換気システム「T-Fresh Air」により、風や外気温、室温、人の位置などの計測データを用いた窓の開閉判断を自動制御し、外気を有効活用した空調を実現したとしている(図10)。
経済合理性のある省エネが課題
大成建設が実現したこれらの技術については、まだ経済合理性を考えるとまだまだ高価であり、コスト削減が必要な状況だ。同社はさらなる高機能化やコスト削減を進め2020年には「市場性のあるZEBの実現」を目指すとしている。
同様の取り組みは、多くの企業が取り組んでおり、ZEBロードマップ検討委員会でも「市場性のあるZEBの実現は可能」との見通しを示しているが、現実的には費用対効果の面でユーザーにメリットをもたらせるかということを考えれば、それぞれの技術をさらに高めていく必要がある。2020年までにさらなる省エネ技術の発展が期待されている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- エネルギー消費が“正味ゼロ”のビル、実現にはまず50%の省エネが必須へ
2030年までに新築建築物の平均でZEBを実現する政策目標が掲げられる中、経済産業省では、エネルギー基本計画に明記されたZEBの政策目標達成のために、ZEBロードマップ検討委員会を開催。ZEBの定義やロードマップなどの検討内容を発表した。 - 2020年に向けZEH化ロードマップ、「我慢の省エネ」から「快適な省エネ」へ
経済産業省では、エネルギー基本計画に明記されたZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の政策目標達成のために、ZEHロードマップ検討委員会を開催し、検討結果について取りまとめた。 - キーワード解説「ゼロ・エネルギー・ビル/ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEB/ZEH)」
夏になると各電力会社は節電を呼びかける。特に国内のほとんどの原子力発電所が停止した今夏は、各地で消費者が厳しい節電を強いられている。「ゼロ・エネルギー・ビル/ゼロ・エネルギー・ハウス」は、年間に消費するエネルギー量がおおむねゼロになるという建物を指す。実現すれば、無理に節電する必要がなくなるかもしれない。 - 製造業の省エネが進まない、エネルギー消費効率は震災前よりも悪化
国を挙げて省エネに取り組む必要がある中で、製造業の対策が不十分なことが明らかになった。エネルギーの消費効率は震災前よりも悪化していて、2013年度の生産量に対するエネルギー消費量は2009年度よりも7.6%増加している。新たにFEMSやIoTを活用したエネルギー管理が求められる。