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間違いだらけの「日本のBIMの常識」Vol.3 日本の「BIM実行計画(BEP)」の誤用から脱却せよ日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ(12)(1/3 ページ)

前回は、間違いだらけの「日本のBIMの常識」に潜む誤解の中で、これまで、「BIM」や「EIR」という言葉自体の意味や背景について話した。今回は、「BIM実行計画(BEP)」について、その正しい定義と解釈を示す。BEPも、BIMを使用するプロジェクトでは、必ず必要となるが、日本ではその本質が正しく理解されてはいない。

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情報マネジメントの用語としてのEIR/BEP

 前回EIRに触れたので、今回はBEPについて説明をする。BEP(BIM実行計画)は、BIMを使用するプロジェクトには必須ともいえるのだが、日本では多くの企業では利用されていないことが多く、作られていた場合でも形式的な書類に留まり、十分な活用がなされていない。

 BEPは、EIRと同じように“情報マネジメント”の用語だが、その起源や背景がEIR(情報交換要求事項)とは異なるため、勘違いして使われていることが多い。このこともまた、日本で「BIMとは、3次元の形状モデルに属性情報を持たせたBIMモデルを作成し、それを設計・施工に役立てるツールや仕組み」と捉えているから起きている現象だ。

 日本では下図のように、EIR(発注者情報要件)を「発注者によるBIMモデルに対する要望」とし、BEP(BIM実行計画)を「受託者によるBIMモデル作成の提案」としている。

日本でのEIRとBEPに対する考え方
日本でのEIRとBEPに対する考え方 筆者作成

 つまり、日本でのEIRやBEPは3次元のBIMモデルのみを対象としており、実務は従来の2次元CADを中心とした設計・施工を中心としている。もちろん3次元モデルの活用に、干渉チェックやプレゼンテーションなどのメリットはあるが、本質的な業務が変わっていないので、現実は設計・施工担当者の作業負荷が増えることになる。

連載バックナンバー:

日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜

日本の建設業界が、現状の「危機構造」を認識し、そこをどう乗り越えるのかという議論を始めなければならない。本連載では、伊藤久晴氏がその建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオを描いてゆく。

間違っているBIM関連の用語と概念 3

 なぜ、そのようなことになったのかを探るために、米国でBIM実行計画(BEP)を最初に定義した「BIM実行計画ガイド」をみてみよう。

米国で生まれたBIM実行計画(BIM Execution Plan:BEP)の起源

 BIM実行計画(BEP)は国際的に普及した概念だが、体系的なガイドとして広く知られるようになったのは、米ペンシルバニア州立大学(The Pennsylvania State University)が2009年にドラフト版として公開したBIM実行計画ガイド「BIM Project Execution Planning Guide Version 0.9」だ。

 その後、Version 1.0(2010年)、Version 2.0、Version 2.1、Version 2.2(2019年)と改訂し、2021年にはVersion 3.0のドラフト版をリリース(参照:The Pennsylvania State University“BIM Project Execution Planning Guide”)。なお、ペンシルバニア州立大学のBIM Project Execution Planning Guideは、「米国BIM標準(National BIM Standard-US:NBIMS-US)version4」のBEPモジュール基盤として、2023年に公式に参照されている。

 米国のBIM推進団体「BIM Forum」も2020年に「BIM Project Execution Plan Guide」のドラフト版を公開しており、この中でBIM実行計画を「BxP」と略している。BIMForumは、日本でも知られる「LOD Specification(LOD100〜500)」を定義した団体だ。北米ではBIM実行計画をBxPと呼ぶことがあり、カナダではProject eXecution Planの略として「PxP」を用いている。

米国でのBIM実行計画に関する取り組みと変遷
米国でのBIM実行計画に関する取り組みと変遷 出典:ペンシルバニア州立大学、BIM FORUM、National Institute of BUILDING SCIENCES

 最新の米国BIM標準「NBIMS-US V4」は、ISO 19650の枠組みを取り入れつつも、米国の実務に適合させた内容となっており、ISO 19650-2のBEPとは内容が異なっている。元になったペンシルバニア州立大学のBIM Project Execution Planning Guideでは、プロジェクトでBIM導入の目標を設定した上で、実現するためのBIMモデルの活用方法を特定し、プロセスの中で実践するという枠組みを定義しており、NBIMS-US V4も踏襲している。

NBIMS-USにおけるBIM実行計画の作成手順
NBIMS-USにおけるBIM実行計画の作成手順 NBIMS-US V4を基に筆者が翻訳

 NBIMS-US V4のBIM活用方法(BIM USE)では、自分の作業が他のメンバーにどのように関連するかを明確に理解するためにプロセス(BIM実行プロセス)マップを作成する(上図の手順3)。下図のようなハイレベルなプロセスマップが作られた後に、各チームのBIM活用(BIM USE)の担当者が、より詳細なプロセスマップを作成することと定めている。

BIM実行プロセスのハイレベルプロセスマップの例
BIM実行プロセスのハイレベルプロセスマップの例 出典:NBIMS-US V4

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