全国規模で組織変革を実現した大東建託のエンゲージメント向上戦略:「従業員エンゲージメント」を高め、建設2024年問題を乗り越える(6)(1/2 ページ)
本連載では、リンクアンドモチベーション 組織人事コンサルタントの山本健太氏が、建設2024年問題の解決策として、会社と従業員の間をつなぐ「エンゲージメント」とその向上策について解説していく。最終回となる今回は、全国200以上の支店を抱える大東建託がどのようにして全社員のエンゲージメント向上に挑み、組織変革を実現したのかを解説する。
これまでの連載でお伝えしてきた通り、建設会社が「2024年問題」と呼ばれる残業上限規制を乗り越え、持続的に成長していくには、従業員エンゲージメントを高める仕組み作りが欠かせません。
今回は連載の締めくくりとして、実際にエンゲージメント向上に取り組み、組織変革を成し遂げた企業の事例をご紹介します。
大東建託の新たな成長戦略に資する人財/組織創り
大東建託は、建物賃貸事業の企画/建築、不動産仲介、管理運営までをワンストップで展開し、土地オーナーの賃貸経営をサポートしています。「いい部屋ネット」という賃貸住宅検索サービスでも広く知られ、全国の賃貸物件を入居希望者に紹介。質の高い賃貸住宅サービスを通じ、オーナーや住まいを探す人々から選ばれ続けている企業です。
大東建託は2019年度に、新たな成長戦略を掲げました。コア事業である賃貸住宅事業から派生する、総合賃貸業や生活支援サービス業などの周辺事業へ積極的に参入し、暮らし全般を支える企業を目指すというものです。
大東建託ではこの成長戦略を実現するために、どのような組織を目指すべきかを検討し、「従業員が会社の理念やビジョンを理解し、会社への信頼や貢献意欲を持って働いている組織」が必要であるとの結論に至りました。そしてこの目指す姿を実現するため、従業員エンゲージメント向上の取り組みを開始したのです。
2024年度には、大東建託グループパーパス「託すをつなぎ、未来をひらく。」を新たに策定。このパーパスをもとに、100年企業への第一歩として、2030年のありたい姿「VISION2030」を定義しました。
さらにVISION2030に向けた中期経営計画(2024〜2026年度)では、人的資本経営の推進、強固なコア事業の確立、中計における注力分野への対応を3つの柱に掲げ、従業員エンゲージメントを重要KPIに設定しています。
エンゲージメント調査への切り替えと役員のけん引
従業員満足度からエンゲージメントを対象とした調査へ切り替え
大東建託は2021年度、それまで実施していた「従業員満足度調査」を「エンゲージメント調査」に切り替えました。
従業員満足度とエンゲージメントには明確な違いがあります。従業員満足度が「会社に対する満足度」を示すのに対し、エンゲージメントは「会社と従業員の相互理解/結び付き」を示します。
従業員満足度が高い場合、従業員はその会社で働くことにメリットを感じていますが、必ずしも会社への思い入れがあるわけではありません。そのため他社から魅力的な条件を提示されれば、簡単に転職してしまう可能性があります。
一方で、エンゲージメントは、会社と従業員の「結び付き」や「つながり」であり、双方向の関係性を前提としています。エンゲージメントの向上とは、従業員の期待を踏まえてつながりを強め、愛着や貢献意欲を高めることを意味します。エンゲージメントが向上することで、労働生産性の向上、営業利益率の向上、ROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)、PBR(株価純資産倍率)の向上、さらには退職率の低下に寄与することが、当社の調査でも明らかになっています。
大東建託ではこういった背景を踏まえて、従業員満足度調査からエンゲージメント調査への切り替えを決断しました。当社が提供するエンゲージメントサーベイ「モチベーションクラウド」を導入。さらに、経営層や経営企画/人事部門が主体となって解決を図る「全社課題」と、現場/事業所レベルで解決を図る「個別組織課題」に分けて、それぞれ取り組みを進めています。
全社規模の取り組みでは、社員同士の感謝を可視化する「サンクスプレゼント活動」や、役職に関係なく「さん」付けで呼び合うことで相談しやすい環境づくりを目指す「さん-シャイン運動」などが代表的です。さん-シャイン運動は社長自ら推進役を務めています。
また、チームリーダー向けに任意参加のワークショップを実施。エンゲージメントの意義や目的、分析方法や施策策定の手法まで学べる講義と、参加者同士で悩みを共有しあうグループワークを行っています。
職種ごとの担当役員が改善活動を主導
特に注目すべきは、各職種の担当役員が主体となり、職種にフォーカスした改善活動を全社で推進している点です。大東建託には「工事」「設計」「営業」「業務」などの多様な職種が存在し、各支店にそれぞれの課が設けられています。各職種で抱える課題は異なるため、それぞれをよく理解している担当役員が各課のエンゲージメント向上に責任を持ち、改善活動をけん引しています。
担当役員は全支店の状況を把握し、エンゲージメントが高い課は改善活動の推進を課長に任せ、反対にエンゲージメントが低い課はエリア統括者や本社の担当者が直接課長と対話する機会を設けるなど、改善に向けた支援を行います。全国に200を超える支店が存在する中でも、それぞれの課の状況に適した改善策を展開できる体制を構築しています。
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