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“サウナと水風呂”で次の100年を拓く 前田建設 ICI総合センターの意義(前編)建設業の未来を創る技術拠点(1)(1/5 ページ)

人手不足や建設費高騰、脱炭素化への対応など、建設業界はかつてない変革期にある。各社は自社の強みをどう磨き、どのような未来像を描いているのか。答えの一端が技術開発拠点にある。シリーズ「建設業の未来を創る技術拠点」第1回目は、前田建設工業の技術研究所「ICI総合センター」を取材。前編ではセンターの全体像を紹介し、後編ではセンターの役割や具体的な研究内容について紹介する。

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 2019年の創業100年を機に、前田建設工業(以下、前田建設)は茨城県取手市にオープンイノベーション推進型の技術研究所「ICI総合センター」を開設した。

 ICIは、インキュベーション(Incubation/孵化)、カルティベーション(Cultivation/育成)、イノベーション(Innovation/社会変革)の頭文字を組み合わせた造語だ。前田建設 執行役員 ICI総合センター長 岩坂照之氏は施設の役割について「『次の100年』に向けた変革を継続するチームのためのプラットフォームだ」と説明する。

 「チーム」とは前田建設社内のメンバーだけを指すのではない。前田建設では組織や分野の垣根を超えた多様なパートナーとの共創により、複雑化する社会課題の解決や新たなビジネスの創出/社会実装を目指している。ICI総合センターは、こうした挑戦の中核を担う拠点だ。

「ICIラボ
センターの中核施設「ICIラボ」のエクスチェンジ棟 提供:前田建設工業

 ICI総合センターは、機能ごとに3つのエリアに分かれる。パートナー企業と共に働き新たな技術やサービスを生み出す研究施設「ICIラボ」(2018年12月完成)、人材育成/深耕の場と位置付ける研修施設「ICIキャンプ」(2019年10月完成)、時代を超えても色あせない建築空間の魅力を伝える「ICIスタジオ」(旧渡辺甚吉邸、2022年3月完成)が順次整備されてきた。

各エリアの位置図
各エリアの位置図 提供:前田建設工業

ICIラボのキーワードは「サウナと水風呂」

 3つのエリアの中で最初に完成したのが研究開発拠点のICIラボ。関東鉄道「常総線寺原」駅前の約5万2600平方メートルの敷地に、業務拠点の「エクスチェンジ棟」、純木造のリフレッシュスペース「ネスト棟」、実験棟の「ガレージ1」「ガレージ2」の4棟が並ぶ。

 ICIラボが構想段階にあった2017年当時、「オープンイノベーションの実践」を掲げた施設はまだ一般的ではなかった。新研究所をどのような建物とするべきか、若手社員から経営陣までが自由に意見を出し合う場を設けて、議論を重ねたという。座長として関わった建築家の内藤廣氏は、建物や空間が持つべき「空気」や「時間の流れ」を言語化してイメージを共有する手法を提案し、設計コンセプトの明文化を助けた。

 この議論の中で象徴的なキーワードとして浮上したのが、「サウナと水風呂」だった。「熱気のある仕事場と、自由なアイデアが生まれるリラックスした環境。その両極が共存することで、オープンイノベーションがより活性化される」と岩坂氏は説明する。

 そこで、エクスチェンジ棟をサウナに見立て、内装ベースカラーは議論を活性化させる赤で統一。エクスチェンジ棟の2階からネスト棟やガレージにつながる連絡通路の床面は、サウナから水風呂への変化をイメージしたデザインを採用し、移動中に利用者のマインドチェンジを促す工夫を施している。

連絡通路を移動する間にサウナ(赤)から水風呂(グレー)へマインドチェンジを促す
連絡通路を移動する間にサウナ(赤)から水風呂(グレー)へマインドチェンジを促す

共創パートナーと開発に取り組む「エクスチェンジ棟」

 エクスチェンジ棟はRC-S造3階建て。1階の玄関を入ると大空間が広がる。曇りガラスの可動式パーティションで仕切れば、複数の会議室としても利用できる。天井や床のデザインには、アイデアが「孵化」する様子を視覚化するモチーフが取り入れられている。

1階会議室。天井の間接照明は孵化をイメージしたひび割れのようなデザインとした。床の三角形の模様は割れて落ちてきた卵の殻を表現している
1階会議室。天井の間接照明は孵化をイメージしたひび割れのようなデザインとした。床の三角形の模様は割れて落ちてきた卵の殻を表現している 筆者撮影

 2〜3階には、フリーアドレス制のワーキングスペースに加え、最大20人で利用できるコロシアムベンチなどブレスト用の空間も用意。黙々と行う個人作業から活発な議論まで多様なワークスタイルに対応し、共創パートナーとの開発を支援する。

ALTALT エクスチェンジ棟の内装ベースカラーは「サウナ」をイメージした赤で統一。議論を活性化させる目的もある
コロシアムベンチは連結することで最大20人程度で利用できる
連結すれば最大20人程度で利用できるコロシアムベンチ

ICI LAB

設計:前田建設工業一級建築士事務所

施工:前田建設工業 関東支店

敷地面積:5万8500平方メートル(ICIスタジオ含む)

エクスチェンジ棟

構造:RC-S造(柱:RC造、梁:S造)

規模:地上3階建て

延べ床面積:2122平方メートル

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