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インタビュー

大阪・関西万博の建設現場で実証中、AI気象予測で施工管理業務の効率化目指す 大阪ガスと大林組の挑戦AI(1/2 ページ)

大阪ガスと大林組がタッグを組み、AI技術を活用した建設工事向け気象予測情報サービスの開発に乗り出した。2024年3月からは「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」の建設現場で実証実験をスタート。実証の中でサービスの有用性の評価や改良を進め、2025年度の外販を目指している。両社の担当者に、開発の経緯やサービスの現状について聞いた。

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 近年、豪雨や猛暑といった極端な気象現象は増加傾向にある。建設工事は屋外での作業が大半を占めるため、こうした悪天候は現場作業や管理業務に直接的な影響を及ぼす。強雨や強風時の作業延期、猛暑時の熱中症対策など、天候の変化に伴う現場での対応は多岐にわたっている。

 こうした現状を踏まえ、大阪ガスと大林組は2023年5月、高精度な気象予測を活用して建設現場の施工管理業務を支援する「建設工事向けAI気象予測サービス」の共同開発に着手した。大阪ガス独自の気象予測技術/AI技術による「AI気象予測」と、大林組が建設工事現場で活用してきた「気象情報活用システム」のノウハウを融合し、気象情報と建設工事情報をひも付けて現場に提供する。

 サービスの開発を進める大阪ガス 事業創造本部 エネルギー技術研究所 計算科学・材料ソリューションチーム 主任研究員の高谷怜氏(高ははしご高)と、大林組 大阪本店 夢洲スマートシティプロジェクトチーム 副課長の西田拓也氏に、開発の背景や現状について聞いた。

顔認証ハウスに設置されたサイネージ
顔認証ハウスに設置されたサイネージ 提供:大阪ガス/大林組

大阪・関西万博建設工事現場で実証実験をスタート

 開発の背景について、大林組の西田氏は「建設工事の進行は気象条件に左右される。例えばコンクリートの強度を確保するためには水セメント比などの厳密な配合管理が求められる。強い雨の日に打設すると水分の比率が上がり、強度や品質の低下につながるリスクがある」と説明する。同様に「クレーン作業中に強風が吹けば、風に煽られた吊(つ)り荷が周囲に衝突したり、クレーン自体が横転したりする危険性もある。加えて落雷でクレーンが故障すれば入れ替えの必要が生じ、コストがかかるだけでなく工期の遅れにもつながる」と指摘。「天候の変化に応じた現場での対応は、これまで職員の経験や勘を頼りにしている部分もあった。新たな気象予測サービスの提供で、より臨機応変で適切な現場対応が可能になる」と語った。

 両社が共同開発を進める建設工事向けAI気象予測サービスは、高精度でピンポイントな気象予測情報を建設現場で使いやすい形に加工し、適切なタイミングで現場職員に提供する。これにより、建設現場の生産性や安全性の向上を目指すサービスだ。

 2024年3月には、大林組が手掛ける大阪・関西万博パビリオンワールド(PW)北東工区を含む6カ所の工事現場で実証実験をスタートした。気温、湿度、風速、風向、降水量、暑さ指数、雷活動度を対象に、工事エリアに特化した予測結果を最小10分単位で1時間先から最長3日先まで提供している。

PW北東工区の位置図
PW北東工区の位置図 提供:大阪ガス/大林組

 予測した情報は、2種類の方法で周知する。1つはチャットツール「direct(ダイレクト)」での配信で、2つ目がデジタルサイネージでの常時表示だ。

 西田氏によると「大林組では現場管理者向けのコミュニケーションツールとして、スマートフォンで使えるdirectを導入している。今回の実証実験では、directを利用する工事事務所の所長や若手監督職員など、6現場で合計約60人に情報を配信している。また、65インチの大型デジタルサイネージを、現場事務所内や、現場への入退場時に通過する『顔認証ハウス』に設置。顔認証ハウスを通らなければ現場に入場できないため、管理者から作業員まで、さまざまな人が気象予測を目にしている」という。

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