施工BIMの未来のために―BIM活用の実態調査からみえてきた諸課題と在るべき姿【現場BIM第2回】:建設産業構造の大転換と現場BIM〜脇役たちからの挑戦状〜(2)(2/3 ページ)
“施工BIM”は、建設DXの「建設のプロセス/BIMワークフロー」と密接に関係する。BIMの過渡期にある今、現場のリアルな課題に目を向け読者と共有することで、施工BIMの未来に向けた第一歩としたい。
施工BIMの「建設のプロセス/ワークフローに関する課題」とは何か?
<表2:建設のプロセス/BIMワークフローに関する課題>
- そもそも2次元の図面で建物はちゃんと建つ(2Dの図面でも3Dイメージはできる)
- 便利なツールもあるようだが、それがなくてもこれまでやってきた
- 便利なツールでは若手が育たない
- うまくいかなかった場合のリスクが高い
- 工期上、試行錯誤している時間的余裕がない
- フロントローディングが重要だとしても、それができる組織環境になっていない
- 建築の少しずつ修正しながら作りあげていくという従来型プロセス下ではBIMでは時間がかかりすぎる
表2の意見や課題は、いわゆる風上の議論に関するものである。建設DXを進めることが前提にある以上は、設計・施工のプロセス改革が必要であり、その意味で「2次元(2D)の図面でも建物はちゃんと建つ」という固定観念からの脱却が大前提。2Dで建物は建つけれど、建設DXを進めるためには、建物を建てる過程のさまざまな情報をデジタル化して統合しなければならないが、これはまさにBIMと同義である(その背景と筆者らが考える建設業界全体の課題については、第1回を参照)。
つまり、BIMは建物を建てる過程の情報をデジタル化して統合する仕組み(=建設DXの基盤)と言い換えられる。もちろん2D施工図も、CADでデータ化はされている。だが、これはあくまで手書きからCADへのツール変換であり、ディジット化にすぎない。しかも2D施工図は、施工のためだけに存在し、建物が完成すればその役目を終える。
一方で、BIMのワークフローのなかでデジタル化された施工データは、施工のためだけの役割を超え、建設DXのデジタル基盤として付加価値を得て、その後の維持管理や再建築などの建設ライフサイクルでも生き続ける。その観点で言えば、2Dでも確かに建物は建つけれど、建設DXを本質的に進めるには、“BIM”で建てなければならない。
プロセスの改革は、ゼネコンをはじめとする建設に携わる全ての組織改革をも対象とするのであって、現状ではまだ、在るべき組織の形を模索する過程にあるため、「フロントローディングが重要だとしても、それができる組織環境になっていない」という意見はもっともだ。
ただ、そのような組織環境になっていないからBIMを排斥するのではなく、これはまさに建設プロセス/BIMワークフローの根本的課題であり、フロントローディングを考慮したBIMワークフローに応じた組織の在り方を考えねばならないことに他ならない。引き合いに出されることの多い製造業とは異なり、従来の建設フローは、少しずつ修正しながら段階的に作りあげていくというプロセスを辿(たど)るため、そのままのやり方を踏襲して施工フェーズでBIMに取り組めば「時間がかかりすぎ」てしまう。これもまた、建設におけるプロセス/BIMのワークフローの問題ということである。
また、「便利なツールもあるようだが、それが無くてもこれまでやってきた」「便利なツールでは若手が育たない」といった否定的な意見についても、建設業従事者数が減少している現状にあっては(詳しくは連載第1回)、業務効率化、魅力ある労働環境を実現することは喫緊の課題であり、便利なツールや作業効率の上がるツールを導入したうえで、若手の育成をどうするかを考えていかなければならない。
このあたりの問題点は、一朝一夕には解決しないだろう。しかし優れた論稿も数多く発表されており、実際、各ゼネコンでも、いわゆる「BIM推進室」「DX事業部」といった部署が立ち上げられ、全社の中心となって、BIMによる建設のプロセス/ワークフローや組織の在り方にメスを入れはじめている。良い意味での日本型建設プロセスやBIMワークフローが構築されるために、筆者としても積極的に提言していくつもりだ。
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