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インタビュー

ドローンセキュリティガイドを公開した「セキュアドローン協議会」に聞く(前編)―“レベル4”で高まるドローンリスクドローンがもたらす建設業界の“ゲームチェンジ”(2/2 ページ)

2022年度中に人口集中地区(DID)での目視外飛行(レベル4)が解禁されることを見越し、建設業界でも活況を呈する日本のドローン産業。本格的な社会実装を目前に、測量や点検などで活躍の場が広がる建設業も含めて、ドローンに従事する者がいま心構えておくべきこととは何だろうか。

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LTEの上空利用で、ドローンもオフラインからオンラインに

 春原氏がドローンのセキュリティリスクを高めるもう1つと懸念しているLTEの上空利用は、2021年夏にNTTドコモがサービス提供を開始し、2022年春にはauの4G LTEネットワークを利用する形でKDDIのドローン会社KDDIスマートドローンも参入。それまでのドローンは、機体とプロポ(送信機)とがWi-FiやBluetoothなどを介して一対一の通信でつながっているだけで、インターネットには接続していなかったが、ドローンにLTEが搭載されることで、ネットに常時接続(インターネットオンライン)となる。

 LTEの利用には、さまざまなメリットが見込まれる。例えば、災害調査では従来、ドローンで収集したデータは、飛行後にSDカードなどの記憶媒体を取り出し、PCにデータを移してオルソ画像を作成していため、災害状況を把握するのに約半日を要した。だが、LTEであれば、取得データをリアルタイムに中央管制に送れるため、わずかなタイムラグで災害の現状を把握できるようになる。

 また、レベル4は、機体の位置と状態を伝える「テレメトリー」と、機体がどのような環境を飛んでいるかを伝える「FPV(First Person View:一人称視点)」の映像データをリアルタイムで送信することが必須要件とされている。春原氏は「おそらく2〜3年の間に、全てのドローンにLTEが搭載されることになるだろう」と予想する。


ドローンのLTE搭載がレベル4を実現する 提供:セキュアドローン協議会

LTE上空利用で可能になること 提供:セキュアドローン協議会

 一方でドローンがオンラインになることは、常にセキュリティ上の危機が付きまとうことも意味する。春原氏は「現代社会では、セキュリティ対策なしでスマートフォンやPCを使うことは考えられない。ドローンでもサイバーサキュリティ対策をとらないと、悪意のある情報漏洩や機体乗っ取りなどに巻き込まれたりする可能性が高まっている」と危機感をあらわにする。

ドローンのセキュリティ対策に関する国の指針

 そうしたドローンを取り巻く状況下で、経済産業省とNEDOは2022年3月末、「無人航空機分野 サイバーセキュリティガイドライン Ver.1.0 非耐空性の領域における情報セキュリティの対応指針」(以下、サイバーセキュリティガイドライン)を策定した。ガイドラインは、「無人航空機を中心に、制御に関わる関連機器やサービス用のクラウド(サーバ)を対象とし、その開発、生産、販売、サービス運用におけるセキュリティ対策の指針となる事項を示す」ことを目的としたものだ。

 ただし、このガイドラインでもまだ不十分だと春原氏は訴える。「サイバーセキュリティガイドラインは、以前からあるIoT機器のサイバーセキュリティに関するガイドラインを引き継ぐ位置付けでしかない。ドローンのセキュリティに関しても、従来のガイドラインの考え方をドローン運用に当てはめたものになっている。しかし、ドローンは常に動くものであり、その点が十分に考慮されていない」。


「無人航空機分野 サイバーセキュリティガイドライン Ver.1.0」のセキュリティ要件に対するクラス区分 提供:セキュアドローン協議会

 では、“遠距離で移動するIoT機器”といえるドローンのセキュリティ対策で、最優先すべき事項とは何か?春原氏は「墜落対策」だと断言する。

 ドローンは、飛行区域を制限するジオフェンス(仮想の柵)を設け、フェンスから出ないようにするというフェイルセーフ(安全性制御)機能を備えている。また、機体の異常でジオフェンスを越えてしまったときは、プロペラを物理的に止めて落とすというコマンドも有している。逆にみれば悪意ある第三者でも、同一のコマンドを送信すれば簡単に機体を落とせてしまう。

 また、「通信妨害による墜落リスクも潜在的に存在する。ドローン操作の通信より強い電波を発信すると通信が遮断され、アンコントローラブル(操縦不能)に陥る。現実問題として、やろうと思えば、DoS攻撃(denial-of-service attack)のように、機体を乗っ取らなくても、何かをさせないことは簡単に実行できる。従って、フェイルセーフと絡めて、対策を練ることは欠かせない」(春原氏)。

 管理された(=閉じた)環境で行う実証実験と異なり、社会実装では、何かが起きたときに言い訳ができない状況に置かれるということでもある。不正にコマンドを使用されたり、強い妨害電波を発して住宅密集地にドローンを落下させたりといったインシデントを想定した対策と合わせて考えなければ、万全の準備とはいえないだろう。「特に、インフラ点検などを含め、既に実用段階のフェーズに入っている建設業界は、セキュリティに関する検証チームを組織し、早急に対策を講じるべきだ」と春原氏は注意を促す。





 インタビュー後編では、ただルールに従うだけでなく、継続性のある事業としても成立しえるドローンのセキュリティ対策の考え方に加えて、今後の建設ドローン産業が拡大していくうえで欠かせない、取得したデータを利活用する“DaaS”の可能性について聞いている。(企画+構成:BUILT編集部 石原忍)

 後編へ続く

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