【第4回】人口減時代を乗り切る、地場ゼネコン2社の“サステナブル・モデル”事例報告:建設専門コンサルが説く「これからの市場で生き抜く術」(4)(1/3 ページ)
本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。第4回は、地場ゼネコン2社の他には無い好対照の独自ビジネスモデルを例にとり、地方建設会社がいかにして持続可能性のある事業展開ができるのかを考察していく。
国内建設投資を俯瞰してみると、コロナ禍により設備投資が減退したものの、国土強靭化計画が延長され、五輪後も都市部を中心とした大型プロジェクトの存在により、短期的には建設需要が拡大していくとみられる。加えて、建設資本ストックの維持更新投資の観点に立つと、建設後50年以上経過する社会資本の割合は急速に拡大することが推測されており、長期的にも潜在的な建設需要は一定規模が見込まれている。
一方で、国土交通省が提示したデータによれば、2015年に331万人存在していた建設技能者は、「10年後に100万人前後減少する」と予測されており、人手不足は着実に深刻化している(出典:国土交通省「i-Constructionの推進」)。
地場ゼネコンが生き残る上で、示唆的なモデル事例
しかしながら、地方と都市部で経済状況が異なるように、地方を基盤とする地場ゼネコン(地方建設会社)と都市部の大型プロジェクトの担い手である大手ゼネコンもまた、足元の業績はそれほど開きがないとしても、中長期の見通しは大きく異なるだろう。それは、あたかもメガバンクと地銀の関係に類似している。人口減少と低成長に伴う資金需要の先細りで貸し出しの伸びが鈍り、利ざやの縮小が続く地方銀行の経営は、10年後には約6割が最終赤字に陥るとの見方がある(出典:日本銀行「金融システムレポート(2019年4月号)」。
筆者は近年、所属する建設ソリューション成長戦略研究会での活動を通じて多くの企業を視察研究するなかで、地場ゼネコンが生き残る上で多くの示唆を与えてくれるモデル事例に遭遇した。
本稿では、その中から、独自の工法開発で全国展開する「加藤建設(愛知県海部郡)」と、独自のワンストップソリューションシステムに磨きをかけ地域密着に取り組む「須山建設(静岡県浜松市)」の好対照の2社を紹介し、地方建設会社の“持続可能性の高いビジネスモデル”を考察したい。両社は、地方建設会社では群を抜く高収益企業であり、かつ創業100年以上の長寿企業でもある。
I.独自の工法開発で全国展開を推進する「加藤建設」
愛知県海部郡蟹江町に本社を構える加藤建設は、1912年に創業した「100年企業」の建設会社。中層混合処理工法のパワーブレンダー工法に代表される地盤改良技術をはじめ、都市型地下構造物を構築する圧入ケーソン技術/アーバンリング(分割組立型土留壁)工法といった新技術の開発に積極的に取り組み、全国で数々の実績を築いており、高い評価を獲得している。また、建設事業に伴う環境負荷の低減や解消に向けて、土壌浄化・水質浄化など、環境に配慮したVE(Value Engineering、価値工学)提案の実施や自然の力を生かす技術開発に取り組むとともに「エコミーティング」を提唱し、全国への普及に努めている。
業績面では、売上高244億円、経常利益約25億円で経常利益率は10.1%で、自己資本比率は71.0%(2021年9月期)と高い収益力と安定した財務基盤を誇る。
事業内容は、「コンストラクト事業(土木・建築)」「ジオテクノロジー事業(地盤改良)」「アーバン・イノベーション事業(圧入ケーソン)」の3事業で構成される。売上高に占める各事業の割合は、コンストラクト事業とジオテクノロジー事業がそれぞれ約4割、アーバン・イノベーション事業は2割となっている。
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