「インフラ点検の常識を変える“RaaS”で世界へ」、東工大発ロボベンチャーHiBot CEOに聞く:インフラメンテナンス最前線(1/5 ページ)
発電所や化学プラント、航空機など、極限環境に耐えるインフラ点検ロボットと、AIデータプラットフォーム「HiBox」の2つから成るRaaS事業を展開する東工大発ベンチャーのHiBot――。これまで、清水建設との共同研究や福島第1原発でのアーム型ロボットの採用など、ロボティクス分野で多数の実績を積み重ねてきた。創業から16年が経った2020年は、第2創業期としてターニングポイントを迎え、多国籍コングロマリット企業やプラント分野で有力な国内のメンテナンス会社とパートナーシップを締結するなど、グローバル市場での飛躍を志す。
インフラ点検のグローバル市場で、秘かに注目を集めている企業がある。2004年に東京工業大学で、イタリアとブラジル出身の留学生2人が研究室の教授とともに立ち上げた東工大発ベンチャーの「HiBot(ハイボット)」だ。従来のロボットメーカーのように、単に機器売りをするだけではなく、クラウド上でのAI検知やリモートコントロールなど、顧客の必要な時だけ必要なサービスも提供する「RaaS(Robot as a Service)」を事業の核として、国内外で展開している。
これまでにも、2016年には、東日本大震災で史上稀に見る原子力事故を引き起こした福島第1原発で、自社開発した“ヘビ型ロボット”が建屋内の調査に利用された他、外資の大手航空機メーカーでの採用、直近では、2020年5月末に、荏原グループ内で環境プラント事業を担う荏原環境プラントと、産廃施設のロボットメンテナンスで資本提携を発表するなど、活発な動きを見せている。
成長軌道に乗りつつあるHiBotの代表取締役社長 ミケレ・グアラニエリ(Michele Guarnieri)氏と、共同創業者で執行役員 パウロ・デベネスト(Paulo Debenest)氏に単独インタビューを敢行し、起業に至った経緯やワールドワイドのインフラメンテ市場での事業戦略などを聞いた。
HiBotロボティクス事業の原点は日本のアニメ
HiBotは、イタリアからの留学生でコンピュータサイエンスを専門とするグアラニエリ氏と、ブラジル出身で機械工学を学んでいたデベネスト氏ら4人が、東京工業大学の大学院生時代に、指導教官だったロボティクスの世界的権威でもある同大学名誉教授 広瀬茂男氏とともに、2004年に創業したのが始まり(広瀬氏は現・HiBot会長)。
幼少期に、永井豪氏原作のアニメ「UFOロボ グレンダイザー」に感銘を受けて、ロボット作りに目覚めたと話すグアラニエリ氏は、「起業した一番の動機は、東工大で博士課程に進んだ時に、顧客が業務改善のために必要としているソリューションを起業家として生み出したいと思った。それと、いつも自分自身に挑戦し、素晴らしい成果として、長く人々に記憶される何かを作り出したかった。そのため、研究室で得た実製品の開発ノウハウを社会に落とし込もうと、会社設立に至った」と当時を振り返る。
創業から10年近くは、送電線のロボットなど他企業からの受託開発がメインだったが、自分たちの強みであるR&D(Research and Development)を生かし、自社オリジナルの製品を製作したいと事業が本格始動したのが2014年。
その後、将来的に、老朽化で大幅な需要拡大が見込まれるインフラメンテナンスの中でも、とくに他の会社が着目していない、3〜6インチの“配管点検”にターゲットを絞った。2016年には米国に支社を開設したことを足掛かりに、2019年には米国・欧州の大企業とも協力関係を構築。ここ数年で、国内外のマーケットを視野に入れた拡大路線へとシフトチェンジする準備が整った。
現在の社内体制は、社員23人のうち、7人がブラジル、イタリア、メキシコ、パキスタン、スペイン、フランスと国際色豊か。博士号取得者も7人いるなど、ロボット工学のスペシャリストが結集したチームとなっている。
2020年のトピックスとしては3月26日に、ベンチャーキャピタルファンドのみらい創造機構と、建築/土木機械などのリースや販売を行う芙蓉総合リースの2者と資本業務提携を交わした。ロボティクス企業として、これから発展するための基盤が築けたことで、今がまさに経営の戦略転換点に差し掛かっている。「今後も、インフラ点検を対象とすることは変えず、従来のハードだけでなく、ソフトも『HiBox』というロボットに関するAIプラットフォーム上で供給し、世界市場への本格参入も見据えている」(グアラニエリ氏)。
一方で、現在のメンテナンス業界が抱える問題点について、グアラニエリ氏とデベネスト氏は、点検時にビルや施設、インフラなどのアセットが利用できなくなり、ダウンタイムが生じてしまうこと、高所での足場作業で危険が常に付きまとうことがあると指摘する。解決に必要だと説くのは、「“SMART MRO(Maintenance,Repair,Overhaul)”の概念。このSMARTという部分に、ロボットのハードとソフトのサプライチェーンを当てはめ、点検業務をスマート化(効率化)させていく」と話す。
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