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堤防の浸透による法すべりのメカニズムを解明、堤体のせん断強度強化が有効令和元年度土木研究所講演会(1/2 ページ)

土工構造物の主な材料である土は、含水の程度により、性状・強度が大きく変化し、破壊形態も複雑で対応しにくい。また、土工構造物は、堤防、道路盛土のようにほとんど土で構成されるものから擁壁、アンカー斜面のように土と別の材料を組み合わせるものまで幅広い。多種多様な土工構造物は、豪雨災害時に、それぞれがどういった状況になるか全てが解明されていない。土木研究所では、実物大の模型実験で、豪雨災害時にもたらされる影響を調べている。

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 土木研究所主催の「令和元年度土木研究所講演会」が2019年10月16日、東京・千代田区の日本教育会館一ツ橋ホールで開催され、土木分野の取り組みや最新技術が紹介された。

 当日のセッションのうち、メインテーマの1つ「激甚化する自然災害リスクの評価と対策」にフォーカスした土木研究所 つくば中央研究所 地質・地盤研究グループ グループ長の金子正洋氏の講演「土工構造分野における近年の豪雨災害に対する土研の取り組みと展望」を取り上げる。

ドレーン部の目詰まりなどの経年劣化が災害時に短所に


土木研究所 つくば中央研究所 地質・地盤研究グループ グループ長の金子正洋氏 

 土木研究所では、土工構造物の豪雨災害への対策として、被害事例の把握や実物大の模型実験による検討を進めている。

 国土交通省などを通じて、全国の災害に関する情報は土木研究所へ集まり、現場が落ち着いた段階で、詳細な被害調査を実施。調査では、大きなダメージがあった土工構造物を中心に、被害分布の広がりも調べている。

 災害時だけでなく通常時でも、技術相談により、全国の現場における土工構造物の豪雨の被害についてデータを収集。全国の事例の中から、主要研究課題としては、施設の機能や社会に重大な影響を及ぼす事象とこれまでに検討されていない事柄を設定している。

 実験は、さまざまな土工構造物における豪雨災害への理解のため、破壊メカニズムや対応する措置を検証している。会場では、実大規模模型の活用例として、堤防の浸透による法すべりと異常降雨作用下での補強土壁のケースを説明した。

 堤防の浸透による法すべりの実大規模模型は、基礎地盤の上面から、約3時間をかけ、盛り土高さの9割に当たる約2.7メートルの高さまで給水槽の水位を上昇させた後、一定の水位を保つことで、洪水時の堤防を再現した。


再現した堤防の構造(左)と外観(右) 出典:土木研究所

 結果としては、4時間目で法尻(のりじり)のごく狭い範囲で崩壊が起き泥濘(でいねい)化が発生し、7時間目で、法尻付近の堤体内水位が上がると同時に、変状範囲が拡大。10時間目で、わずかな堤体内水位の上昇とともに、変状範囲が急激に増大し、13時間目には、ほぼ堤体内の水位が一定となり、変状範囲は一層拡張した。


時間ごとの再現した堤防の変化 出典:土木研究所

 「浸透流解析と円弧すべり計算を組み合わせ、安全率(構造物などが正常に作動しなくなる最小の負荷と予測される最大の負荷との比)が1以下になる範囲(崩壊しやすいエリア)を割り出し、実験ではその箇所がどうなるかを確かめた」(金子氏)。

 さらに、「10〜13時間目で変状範囲が大幅に広幅化した傾向を含め1〜13時間目までは、実験と計算で導き出したエリアが一致したが、13時間目の安全率が1を下回る部分は、実験に比べ広範囲となった。だが、緩み領域(土層検査棒による調査)と13時間目の安全率1未満の範囲はほぼ同一だった」と補足した。

 実験で得られたデータに基づき、進行性を有する堤防の浸透による法すべりを抑制する方法として、堤体内水位の上昇を抑えることと、堤体のせん断強度を高めることを提案した。堤防で施工実績の多いドレーン工は、ドレーン部の目詰まりなどの経年劣化が災害時に短所になることも指摘された。

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