素材を生かした「メイド・イン・ローカル」のデザインメソッドが世界へ。建築家・芦沢啓治氏に聞く:Architecture & Interior Design alternatives―Vol.1(4/5 ページ)
一貫して素材に対し「正直なデザイン」を心掛け、他に2つと無い特徴的な作品を次々と世に送り出している建築家・芦沢啓治氏――。木や鉄、石の持つ表現力をそのまま生かすため、マテリアルと真正面に向き合い、まさに対話することで作品を生み出している。3.11の被災地に設立した家具ブランド「石巻工房」は、メイド・イン・ローカルを掲げ、マテリアルに向き合う個性的なデザインは守りつつも、EUやアジアでもパートナーを拡大させている。
目指したのは、素材の可能性を探す場に――。
2015年には、東京の事務所にほど近い小石川3丁目に、製本所をリノベした石巻工房のショウルームもオープンした。国内外から頻繁に見学者が来訪しているということで、取材当日もフィリピンの著名なグラフィックデザインチームが視察に訪れていた。ここを発信拠点にして、今では石巻工房の家具は、オフィスデザインを考える上でのマスターピースとして、GoogleやAmazonなどの著名なITベンダー企業のオフィスに導入されているという。
対外的なもう一つの発信のフィールドとなっている見本市IFFT/インテリア ライフスタイル リビングでは、芦沢氏は6年間にわたり、マテリアルを軸に据えた展示エリアのディレクションを行ってきた。ブースでは、壁紙、床材、テキスタイル、ガラス、タイル、瓦、金物など、多種多様な素材を使った作品が毎年出品され、住空間を彩るヒントが集まり、デザインの可能性を探せる機会として注目されている。
過去のコンセプトをみると、2015年には「黒の世界」と題し、黒に染めたファブリックや黒チタンなど、ブラックのあらゆるモノを集め、また、別の回では本物ではない、フェイク(まがい物)の材料だけを紹介する試みも行っている。
今回のテーマ・アップサイクルは、「言葉が先行しているが、日常的に意識をするところまでは浸透していない。ファッションブランドの取り組みで知られている廃棄ペットボトルから、フリースを作る取り組みは、それなりのコストを要するが、アップサイクルでは、ほぼコストを必要としない。使わなくなった子供用のイスを2つつなげてリメークすれば、イスから木棚へと違う機能性を持った家具へと生まれ変わる」(芦沢氏)。
会場では、4人の建築家・デザイナーが考えるアップサイクルのイメージを具現化した作品が展示される。彼ら出展者の取り組みを一例として紹介すると、ビート板の製造時にボードを切り出す際に残る耳を通常は業者が買い取っているが、これを応用してベンチを制作している。
また、長崎県の焼物「波佐見焼」の製造過程では、あらかじめ欠陥品が出ることを見込んで100点の納品に対して余分に作る。納めずに残った端数は、通常であれば捨ててしまうが、1つにき5円ほどの廃棄料金がかかるため、これを流用して床下の材料に使ったりしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.