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インタビュー

素材を生かした「メイド・イン・ローカル」のデザインメソッドが世界へ。建築家・芦沢啓治氏に聞くArchitecture & Interior Design alternatives―Vol.1(2/5 ページ)

一貫して素材に対し「正直なデザイン」を心掛け、他に2つと無い特徴的な作品を次々と世に送り出している建築家・芦沢啓治氏――。木や鉄、石の持つ表現力をそのまま生かすため、マテリアルと真正面に向き合い、まさに対話することで作品を生み出している。3.11の被災地に設立した家具ブランド「石巻工房」は、メイド・イン・ローカルを掲げ、マテリアルに向き合う個性的なデザインは守りつつも、EUやアジアでもパートナーを拡大させている。

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素材本来の良さに向き合う「正直なデザイン」

 素材への探求について芦沢氏は、「例えば日本の一般的なマンションやオフィスビルの内装は、印刷された化粧シートを壁に貼っているだけで、いわば塩ビラッピングハウスのようなものが少なくない。分譲マンションや建て売り住宅は、売ることが先行して、設計図の品番を変えるだけで、パッケージ化した商品になってしまっているのが実情だろう」と現状の問題点を指摘する。

「9H NINEHOURS KAMATA」 (Architect:芦沢啓治建築設計事務所、Project architect:芦沢啓治 / 山口健太郎、Structural engineer:江尻建築構造事務所、施工:辰、コンセプト&プロダクトデザイン:柴田文江、サイン&グラフィックデザイン:廣村正彰、Photo:Nakasa&Partners) 画像提供:芦沢啓治建築設計事務所

「RIVERSIDE HOUSE」 (Architect:芦沢建築設計事務所、Project architect:芦沢啓治/本條理恵/Silvia Tasani、Structural engineer:ASA 鈴木啓、施工:日南鉄鋼、Photo:Daichi Ano)  画像提供:芦沢啓治建築設計事務所

 だが、「小石川周辺にも残る昔の日本家屋をみると、安普請なのに、無垢の木材など厳選した材料を使っている。長い歴史の中で、養われてきた技術やノウハウが失われてしまっているように感じられる。(建材や施工の)品質が向上しても、“住空間は貧しいままだ”という思いがあった。根底には、材料そのものに触れる機会が無くなっていることがあるのではないだろうか」と話す。

 ここ数年、インバウンドを受けてかオーダーが増えてきているという意匠性の高いホテルでは、内装材を何にするかを素材の中から選び抜き、壁はあえてペンキで塗る。その場合、材料費や塗装前の養生などで、工期やコストが必然的に上がってしまうが、木目調などのシートで壁面を覆ってしまうのとは違い、素材本来の良さが表れるのだという。「正直なデザインをモットーとしているが、それは機能的であること、長く使えること、美しいたたずまいがあることを意味する」(芦沢氏)。


東京・文京区小石川の一角に佇む芦沢啓治建築設計事務所。壁を白く塗り、扉をアルミからスチールサッシに変更した (Photo by Takuya Murata)

芦沢啓治建築設計事務所では、多様な国籍のスタッフが参加している (Photo by Takuya Murata)

 素材を追求した最たる例が、地域に根付くプロジェクトを目指し、宮城県石巻市沿岸部の商店街に、ものづくりの拠点として創設した石巻工房。震災で傷ついた街に、芦沢氏をはじめとするデザイナー有志が補修道具や木材を提供し、復旧・復興のために、誰もが自由に使える公共的な施設として始まった。

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