搭乗時の6割の作業効率しかない建機の遠隔操作に“5G”は何をもたらすか:令和元年度土木研究所講演会(1/3 ページ)
土木研究所では2016年度から、災害発生時に建設機械を遠隔で操作するロボット技術の研究に取り組んでいる。ロボット技術は、現段階で利用可能なレベルに達し、災害復旧の現場で実際に適用はされているが、人が搭乗して操作するのに比べると劣る効率性や限られた情報だけを頼りにした操縦方法の不安定さなど、改善すべき課題は多い。
土木研究所主催の「令和元年度土木研究所講演会」が2019年10月17日、東京・千代田区の日本教育会館一ツ橋ホールで開催され、土木分野の研究成果や最新技術が多数紹介された。
本稿では、「災害発生時の対応にロボット(建設機械)技術を適用する上での課題と展望」と題した土木研究所 つくば中央研究所 技術推進本部長・有田幸司氏の講演を紹介する。
ロボットの構成要素は、「センサー」「知能・制御系」「駆動系」
雲仙普賢岳の噴火に伴う災害復旧を契機に、国内では災害発生時の危険な環境下を対象にして、建機による調査・作業を遂行するロボットと遠隔操作技術の開発が進められてきた。しかし、災害の発生頻度は常にあるわけではなく、市場も限定的なため、民間主導だけでは技術の維持や社会実装化までの道のりには限界があった。
そこで国は、策定した「ロボット新戦略」のなかで、さらなる技術開発や新産業の創出を後押しすることを打ち出した。結果として、今では、センサー、制御系、AI、IoTといった要素技術が進展し、さらに2020年からは次世代通信規格「5G」のサービス開始に伴い、次のステップへの移行も見込まれている。
有田氏によると、「建機ロボットには一般的な定義は無いが、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)ではセンサー、知能・制御系、駆動系の3要素を有する知能化した機械システムとしている。これだけでは、実態にそぐわなくなる恐れがあるため、土木研究所ではこうした技術を取り入れたシステムやロボット化された装置も含めている」と話す。
建機に3要素を置き換えると、もともと制御=作業効率は「人」(オペレーター)の熟練度に依存している部分が大きく、センサーと知能についても人が担っている。近年は、センサーや知能に代わるマシンガイダンスやマシンコントロールも搭載され、操縦自体は人の手を離れつつあり、民間ではAIでベテランオペレーターの暗黙知、ノウハウを継承する研究も進められている。
災害用ロボットの遠隔操作は、建設機械に搭載したカメラとセンサーで取得したデータを無線通信システムによって、安全な場所にいるオペレータに送り、操縦者側では遠隔のコントローラーを使って発する信号が操縦席に設置するロボットの知能・制御系に伝わり、建機の駆動系を動かしている。
この場合、遠隔でコントロールする側が主体となるため、災害や事故現場といった想定外の現場で対応させるのは基本的に難しいとされる。現場環境の地盤や地質などといった条件が分からなければ、建機の適切な姿勢や動作を指示することができない。まだ、ロボット側で姿勢や動作の全ての自律制御を行う技術は実用化されておらず、オペレータが映像を頼りに操作しているのがほとんどだという。
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