難題山積みの建設業を救えるか?世界で注目される「Con-Tech(建設テック)」の日本版が始動!:カシワバラ・コーポレーションの狙いとは?(2/2 ページ)
マンションの大規模修繕工事を手掛けるカシワバラ・コーポレーションは、「建設×テクノロジー」で業界の課題解決を目指し、有望なITスタートアップ企業へ投資する「JAPAN Con-Tech(建設テック) FUND」を開始した。当初の投資枠は50億円で、建設業に技術革新をもたらす企業を募っていく。
数万円から数十億円のさまざまな現場で、技術検証が可能
協業を募る企業には、特に条件を設けておらず、幅広いサービス形態を受け入れる。「投資によって、業界全体を改革するなどと、大胆なことは言わないが、建設業界に資するソリューションが生まれると同時に、投資した会社が成長してくれるのが望ましい。新たなテクノロジーで、職人や建設技術者/技能者が付加価値のある仕事ができることにつなげたい」(山田氏)。
なぜ、国内の建設会社がCon-Techを始めたのかについて山田氏は、「ここ最近のIT化は、ベンチャー企業側からの提案で行われることが多いが、そうではなく、こちら側(当事者側)から歩み寄っていくことも必要なのではないかと考えた。当社グループには建設資材の販売、保険の代理店、DIYを対象としたWebメディアなど、14社があり、建設業の中にいながら、多様な業態でさまざまな先進的な取り組みも行っている。既存業態ではできないようなことも、一緒に組むことで、実現するのでは、と思ったのが出発点だ」と説明する。
一方、岡崎氏は、「社内の一部事務作業では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入するなど、ITへの感度も他の建設会社に比べて高いと自負している。仮に先進的で資金力のある大手ゼネンコンと創業間もない企業が共同で開発したとしても、縦構造の中で閉じてしまってヨコへの広がりが見込めない。場合によっては、できあがったシステムが単独の会社仕様で完結してしまうこともあり得るだろう。当社は連結の売上で約700億円だが、意思決定はスピーディーなため、即断を必要とするスタートアップ企業と組みやすい。狙いは資産運用では決してなく、新規ビジネスの成長と我々が抱える課題解消にあり、そのためにはきちんとテクノロジーを形にすることだ」と強調する。
「当社の手掛ける現場は、マンション大規模修繕、プラントメンテナンス、オフィス/店舗/社宅のリノベーション、建築ではビルから新築住宅までの設計・施工など、受注単価も数万円から40億円まで大小さまざまを扱う。言い換えれば、多種多様な現場があり、新たな技術を試験的に適用しやすい開発環境が整っている。参入障壁の高い建設業界で、協力が得られないという声もよく聞く。投資先企業のバックアップをしながら、実証実験や導入支援の場の提供も行っていく」(岡崎氏)。
現在のところ、想定される技術としては、ドローンやレーザースキャナーを用いた3次元データ化をはじめ、クラウド/ビッグデータ/AIによるデータ管理、VR/ARの可視化、施工ロボットやパワースーツなど作業員の負担軽減などで、人に代わる労働力の提供から、コミュニケーションのサポートまでと多岐にわたる。
山田氏が理想形と語るKaterraは、2015年にテスラやフレストロニクスでCEOを務めたMichaelMarksらによって設立された建設会社。従来の建設業界でネックだった長いサプライチェーンを改善し、BIMモデルやERPシステムを活用することで、建物の3次元モデルに設計・施工に関するあらゆる情報を統合して、サプライチェーン全体で共有している。
資材調達からデザイン、建築までを“垂直統合”することで、サプライチェーンの最適化を図り、ゼネコン方式ではありえなかった品質確保と工期短縮を実現。ただ、旧来のハウスメーカーの様に画一的な建築物を生産するのではなく、設計事務所を買収するなどして、デザインには特に注力し、資材調達や情報共有の無駄な部分などを省くことで、意匠性の高い建築物を生み出している。現在では会社創業3年にして、評価額30億ドルに達し、全米ゼネコンTOP20に入るほどの急成長を遂げている。
日本でも、また違った形で業界を変えてくれる会社が現れればと期待を込める山田氏だが、「JAPAN Con-Tech FUNDには既に、10社前後からの応募が来ている。2019年度内の早い段階で、最初の提携をできるように協議を重ねていきたい。ただ、1社だけに限定しているわけではないので、意欲的な会社からの問い合わせは随時応じていくつもりだ」と意欲を見せた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 日本進出50周年を迎えたヒルティが、「工具はどこに行った?」を解決するIoT資産管理“ON!Track”
リヒテンシュタインに拠点を置き、建設向けプロフェッショナル用の工具をグローバル市場に供給しているヒルティは、2018年で日本進出を果たしてから50周年を迎えた。この機に、日本の建設市場で工具や重機といった資産をICT技術によって一元管理する新たなソリューションを本格展開する。 - 大量の図面管理と顧客管理を一元化、「&ANDPAD」に図面共有機能のアプリが追加
オクトは、建設プロジェクト管理サービス「&ANDPAD(アンドパッド)」と連携した図面をスマートフォン上で一元管理できるアプリ「&ANDPAD図面」のβ版をリリースした。大量の図面をクラウド環境で管理し、アクセスするデバイスや場所を選ばずに閲覧・書き込みが可能になる。 - 地上点群データと埋設物モデルを統合したCIM、HoloLensで施工箇所を“可視化”して事故防ぐ
大成ロテックは、CIM(Construction Information Modeling)と、MR(複合現実)技術を組み合わせ、道路埋設物を現場で可視化する新技術を開発し、和歌山市内の電線共同溝工事に初適用した。この技術により、通常は見ることのできない、地中の構成物を着工前に確認することで、工事中に起きやすい埋設管の破損事故などが防げる。 - 土砂災害の復旧準備を最短化、“西日本豪雨”の被災地を「UAVレーザー測量」で調査するテラドローンに聞く
日本列島を立て続けに襲う大雨と地震。これに伴い甚大な被害をもたらすのが、土砂崩れ・地すべりなどの「土砂災害」だが、その災害状況の計測も2次災害のリスクから困難を極める。そこで、現在活躍の場を広げているのが「UAVレーザー測量」である。最短で即日にフライト計測し、中一日で測量精度1/500に基づく地形データの提出が可能だ。“西日本豪雨”の土砂災害状況を調査するテラドローンの関隆史、河越賛の両氏に話を聞いた。