“標定点”や“検証点”が無くても精度の高い3D点群データをスピーディーにMMSで取得
安藤ハザマと朝日航洋は、GNSSアンテナやレーザスキャナーを車両に搭載し、走行しながら3次元空間データを取得する「MMS(Mobile Mapping System)」の技術を改良し、よりスピーディーかつ効率的な3D計測の管理技術を開発した。新しい計測手法では、実測前に、電柱や看板などの既知の地物を測り、一定の精度を満たす“有効計測距離”を求めることで、精度が担保できる部分と出来ない部分を把握する。これにより、計測対象が遠くにあって、設置に手間のかかる標定点や検証点が無くても、有効計測距離以内のデータのみを使用することで、3D点群データの精度が保証される。
安藤ハザマと朝日航洋は、既に開発している主に平たん部を対象にしたモービルマッピングシステム(MMS)を用いた3D計測技術を改良し、遠方にある構造物を対象にした3D計測の新しい精度管理技術を共同開発した。
標定点や検証点を設置する手間と時間を大幅に削減
一般的に、MMSを含めたレーザスキャナーによる3D計測は、精度確保のために計測対象物上に「標定点(データを補正するための既知の点)」と「検証点(作成されたデータがどのくらい正しいかを確認するための既知の点)」を設置し、計測した3D点群データの補正と検証を行っている。
切土法面や背の高い構造物を含む計測エリアでは、標定点と検証点の設置とその測量に多くの時間を費やし、設置自体が困難なケースもあるため、標定点と検証点を可能な限り減らすことが作業効率化のカギとなっている。しかし、広範な計測エリアでは、標定点と検証点の数を減らすことで、計測精度が確認できない、あるいは精度が低下してしまうといった課題点があった。
両社は、標定点・検証点の配置および3D点群データの補正・検証方法を刷新することで、計測データの精度を確保しながら、MMSによる出来形測量を効率化する精度管理技術を開発した。
現地計測に先立ち、キャリブレーション(較正)としてトータルステーションであらかじめ計測しておいた道路縁石、電柱や看板といった既設構造物などの地物(基準データ)を、MMSで計測。移動する車両に積んだレーザースキャナーからの距離に応じて、基準データと計測データの一致度合いを評価し、計測距離と精度との関係式を作成する。これにより、計測精度に応じた有効な計測距離を把握することができる。
その後、基準データと計測データの整合性がより高くなるように、MMSに装備されたレーザスキャナー装置の取付け角度、位置、照射パラメータなどを調整。このキャリブレーションを繰り返すことで、計測距離と精度との関係を明確にしていく。この作業自体は、計測エリア近隣やMMS車両基地などで実施し、現場で計測する度に行う必要はない。
現地計測は、MMSの走行路面上やその近傍といった設置や測量が容易な場所に標定点と検証点を配置し、計測距離と精度を検証する。標定点・検証点を配置していない、置くことのできない遠方の計測エリアでは、キャリブレーションの段階で作成した「計測距離と精度との関係式」を参照し、有効計測距離以内のデータのみを使用し、3D点群データの精度を担保する。
この技術では、MMSの走行位置から遠く離れた場所や標定点・検証点の設置が困難な計測エリアに、今までの様に点を設ける手間が無くなる。そのため、事前の設置と測量にかかる時間を大幅に削減でき、適用可能な工事内容の幅も広がる。計測データの精度は、切土法面上に設置した実験用検証点とMMSによる実測値との較差検証で、従来同等の精度を確保していることが確認されている。
また、MMSだけではなく、移動体搭載型のレーザスキャナーにも適用できるため、i-Constructionにおける「起工測量」や「出来形測量」で使用する計測機器も選択肢が増え、多様な計測エリアへの対応が可能になる。維持メンテナンス事業では、土構造物の変状確認やトンネル覆工面の経年変化の抽出といった、道路構造物や付帯構造物の点検作業にも転用が見込める。
両社は、「精度管理手法が明確で、スピーディーな3D計測が可能なこの技術は、近年多発する土砂災害に対して、人の立ち入りが困難な崩壊地の状況把握にも、活用が見込める」として、今後も技術改良を進め、現場の生産性や安全性のさらなる向上を目指していく。
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