鹿島が溶接ロボット10台をビル新築工事に本格導入、専属オペレータ8人と梁588を溶接:ロボット
鹿島建設は、愛知県名古屋市で施工中の「(仮称)鹿島伏見ビル新築工事」で、汎用可搬型の溶接ロボットを本格導入した。現場では、グループ会社の鹿島クレスが、溶接ロボット10台とオペレータ8人で、柱10カ所、梁585カ所を溶接した。
鹿島建設は、「(仮称)鹿島伏見ビル新築工事」で、「汎用可搬型溶接ロボット」を本格的に適用し、横河ブリッジと共同開発した施工手法により、柱の全周溶接と梁(はり)の上向溶接を行った。現場ではグループ会社である鹿島クレスが、溶接ロボット10台とオペレータ8人を動員して、柱10カ所、梁585カ所の溶接作業を安全かつ高品質に施工したという。
鹿島伏見ビル新築工事では、生産性向上を目標に定めた「鹿島スマート生産ビジョン」の実現に向け、18項目もの先進的な技術・システムの集中的な実証を進めている。ロボット技術はそのうちの一つで、近く予想される溶接技能工の不足や高齢化に対する有効な解決策と位置付けている。
人では不可能な下方からの“上向溶接”が実現、作業時間を短縮
鉄骨構造の建物で骨組みとなる柱や梁の接合には、溶接を用いることが一般的。溶接技能者には高度な技量が求められるが、将来予想される人手不足と高齢化により、作業員の確保と効率化・省力化は、喫緊の課題となっている。
鹿島スマート生産ビジョンでは、「作業の半分はロボットと」をコアコンセプトの一つとし、繰り返しの作業や人では苦渋を伴う作業、自動化により効率や品質にメリットが得られる作業などを対象に自動化・ロボット化を推進している。
現場溶接の分野では、溶接作業そのものが繰り返し作業であり、形状・肉厚の大きい柱の“横向溶接”や梁下フランジの“上向溶接”は、作業員に大きな負担を強いるため、溶接ロボットを用いた作業の実現を目指している。
ロボットのベースは、複数の汎用可搬型溶接機による基礎実験の結果から、多層盛溶接ロボット「石松」(MHIソリューションテクノロジーズ製)を採用。このロボットを用いて、横河ブリッジと共同で、現場溶接特有の問題点を解決する方法を開発している。
今回、適用したビル新築工事の現場溶接では、柱・柱接合部の全周溶接と、柱・梁仕口部の下フランジ溶接を溶接ロボットで全箇所を施工した。
これまで、下フランジの溶接は、上方からの“下向溶接”で行っていたが、支障物があるため、作業時間を要していた。溶接ロボットを導入することで、人ではほぼ不可能であった下方からの“上向溶接”での作業が実現し、さまざまなメリットが確認されたという。
ロボットによる利点としては、梁のウェブやボルトなどの支障物を気にせず、直線的な溶接が可能となり、またスカラップ(交差部を溶接するためにあえて設ける欠損)も不要となるため、溶接の品質が大幅に向上。従来は、下フランジを上方から溶接していたため、邪魔になる上階の床施工を後回しにしていたが、上向溶接ではその必要もなく、鉄骨建方工程の短縮ももたらされた。床施工や次節の鉄骨建方といった他の工程に左右されないことで、溶接作業量の平準化にもつながたった。
また、下フランジの溶接を下階の床施工後に行うことで、危険を伴う吊(つ)り足場ではなく、高所作業車を用いた作業が可能となるため、作業員の安全性が確保される。
鹿島建設によれば、ロボットによる溶接には、柱の全周溶接での四隅(曲線部)の処理や梁の上向溶接における溶接金属の垂れといった解決すべき課題がまだあるとする。さらに鉄骨製品の製作精度に加え、許容範囲の建方誤差も、施工品質に影響するため、技術開発だけではなく、ロボットオペレータの育成も含めたトータルな施工システムの構築が必要としている。
今回、ロボット溶接の作業を担当した鹿島クレスでは、2016年4月に「溶接事業部」を発足。既にロボットオペレータの訓練と育成に着手している。JIS溶接資格の取得をはじめ、ロボット溶接安全教育の受講、技量試験への合格などを経て、ロボット溶接オペレータとしての知識・技術を身に着ける。
鹿島スマート生産ビジョンでは、BIM(Building Information Modeling)、ロボット、遠隔による現場管理手法を核に、2025年までにより魅力的な建築生産プロセスの実現を全社挙げての目標に掲げている。
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