橋梁の床版取替えで人員6割減の「コッター床版工法」、実施工に向け共同事業契約を締結:インフラ維持管理
熊谷組とガイアート、オリエンタル白石、ジオスターの4社は、共同開発した道路橋の床版取替え工法「コッター床版工法」で、実用化のための全ての試験を完了し、事業化に向けた共同事業契約を締結した。同工法は、供用中の橋梁に対して、従来工法よりも大幅に工期短縮と省人化が見込める新技術。実用化のフェーズに至ったことで、今後増大が見込まれるインフラ更新市場への適用により、人手不足や生産性向上への貢献にも期待ができる。
熊谷組とガイアート、オリエンタル白石、ジオスターは、共同開発した「コッター式継手を用いた道路橋プレキャストPC床版(コッター床版工法「NETIS登録No.KT-180108-A」)」で、実用化のための全試験を完了し、事業化に向けた共同事業契約を締結した。
プレキャスト床版のボルトを締めて接合するだけの簡単急速施工
コッター床版工法は、供用中の橋梁(きょうりょう)床版の取替え工事に用いる技術。あらかじめ工場で製作されたプレキャスト版を現場で敷設し、床版に埋め込んだ“C型金物”に、くさび状の“H型金物”を挿入して、固定用ボルトを締め込るだけで完了する。
現状、プレキャストPC床版の架け替え工事で行う接合部の施工(ループ継手工法)は、現場で鉄筋と型枠を組み、幅30〜40cm(センチ)の間詰コンクリートを現場打ちする必要があった
コッター式継手工法では、現場での鉄筋・型枠の組立作業が要らず、鉄筋工・型枠工も配置せずに済み、作業人員は約60%低減、床版の設置から接合までの作業日数も約50%短縮する。接合部は、2cmの目地となり、床版面積の99%をプレキャスト化できるメリットもある。
コッター床版は、接合部のH型金物を切断しても、周囲の床版強度に影響しないため、部分的な取替えが容易。供用後のメンテナンスや災害時の早期復旧でも、早急に対応でき、構造物の将来的な維持管理面でコスト削減につながる。
実証試験では2016年8月に、「輪荷重走行疲労試験」を実施。100年相当以上の耐久性や従来工法(ループ継手工法)と同等の疲労耐久性を有すること、さらにひび割れ抵抗性に優れていることを確認した。
橋梁には、正曲げ区間(下側に変形する区間)と負曲げ区間(上側に変形する区間)があり、これまでの試験では正曲げ区間を対象としていたため、コッター床版の適用範囲に制限があった。このたびの試験で、負曲げ区間でも、正曲げ区間と同様の性能が実証されたことで、全区間でコッター床版の適用が可能となり、実用化の段階へと至った。
国内で老朽化が進む橋梁は、2023年には全国約70万橋のうち4割以上が竣工後50年を経過するとみられ、その市場規模は数兆円にも上るといわれる。コッター床版工法であれば、供用中でも、交通規制や迂回路は不要で、工事に伴う社会的な影響が少なく、利用者の利便性を確保したままで橋梁の維持管理が実現する。さらに、熟練工を現場に配置しなくてもよいため、人手不足が深刻さを増す建設業界での課題解決にも、期待できる。
開発4社は、全試験が完了したため、コッター床版工法を広く市場に普及させる目的で、2018年11月30日付で共同事業契約を締結。コッター式継手の設計、製造、販売を行う事業体制を検討するとともに、当面は高速道路のリニューアルプロジェクトでの採用を目指す。将来的には、施工実績を積み上げ、海外への展開も視野に入れている。
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