“スーパー堤防”建設で周辺住民との合意形成スムーズに、国交省が首都圏90kmの整備促進へ:スーパー堤防
国土交通省は2018年12月、「宅地利用に供する高規格堤防の整備に関する検討会」の意見をとりまとめた。高規格堤防(スーパー堤防)は、一般的な堤防の30倍程度の高さを盛り上げ、洪水や地震の液状化によっても決壊しにくい堤防のこと。しかし、この計画地には多くの戸建住宅が存在し、周辺住民の合意形成が必要となるため、整備の壁となっていた。このとりまとめでは、国が住民などとの調整に向け、今後行っていく対応策を整理している。
国土交通省は2018年12月、「宅地利用に供する高規格堤防の整備に関する検討会」の意見をとりまとめた。高規格堤防(スーパー堤防)の整備予定地には、多くの戸建住宅があり周辺住民との合意形成が必要になる。このとりまとめでは、国が住民などとの調整に向けて今後進めていく方策を示している。
高規格堤防の整備で、事前調整から引き渡しまでの方策をとりまとめ
首都圏での高規格堤防は、2011年に整備区間の考え方が見直され、「人命を守る」ことを最重視し、「人口が集中した区域で、堤防が決壊すると甚大な人的被害が発生する可能性が高い区間」であるゼロメートル地帯を対象に計画が立てられている。首都圏ではこれまで、江戸川、荒川、多摩川の整備区間約90km(キロ)を事業化。自治体などが行う市街地開発とも連携し、治水対策としての効果に加え、安全・快適なまちづくりにも資する重要な防災機能として建設を行っている。
共同事業の事例としては、「荒川小松川地区(東京都江戸川区)」で東京都の市街地再開発事業、江戸川区の千本桜整備事業とともに、延長2380m(メートル)の高規格堤防が2015年度に完成。土地区画整理事業との共同では、「荒川平井七丁目地区(東京都江戸川区)」で、江戸川区の土地区画整理事業と併せて、延長100mの堤防が2014年度に竣工している。
整備にあたっては、盛土上面の利用や共同事業者との役割分担が不明確なことや地権者の理解が得られないことなどが課題としてあった。円滑かつ確実な進捗のためには地権者の理解や協力が不可欠とされるが、立ち退き移転を強いなければならないケースもあり、相互の誤解を生じないようにするには、対応策を明確にする必要がある。
検討会では、事業に対し理解・協力を頂く地権者の負担軽減が図られるように、事業を円滑に進める上でも、宅地利用に供する高規格堤防の整備における地盤強度の考え方や今後の対応方策について議論を交わし、国としての方向性を示した。
今回、国土交通省がとりまとめた内容では、(1)事業調整段階、(2)計画・調整段階、(3)設計段階、(4)施工段階、(5)盛土完成段階〔引き渡し〕――の各段階に分けて対策を示している。各段階の対策は次の通り。
(1)事前調査では、事業を進める上での基本的な情報となる原地盤の地盤強度を調査し、国と共同事業者の間で情報共有を図る。そのうえで、共同事業者と地権者が引き渡しの取り決めをする場合、国は地盤情報や自治体における事例を紹介するなど、情報提供などで協力する。また実際の事業では、国と共同事業者が合意した地盤強度の確保に向け、役割分担を行う。
(2)引き渡し時に国と共同事業者で誤解や認識不足が生じないように、事業調整段階で、盛土造成前の地盤強度の調査を実施する。施工管理上で必要と考えられる地点数や実施時期などもこの段階でまとめる。
(3)設計フェーズでは、地盤強度を確保するための対策工を検討する。併せて、盛土の造成中や完成時にも施工管理上でと考えられる場合は、地盤強度を調査して、強度不足が確認された場合は対策工事を検討する。改良土の使用や地盤改良など、施主(地権者)の建築物の基礎の選定に影響を及ぼす内容については情報共有する。
(4)盛土造成では、当面は高規格堤防盛土の設計・施工マニュアルに基づき、盛土締固めを管理。強度不足が確認された場合は、設計であらかじめ決めた対応を実行する。
(5)最終段階では、調査の結果強度不足が確認された場合、設計段階で検討した対応を行う。(4)(5)ともに共同事業者との間で合意した内容の履行に関する疑義が生じた場合は、速やかに共同事業者との間で確認して、解決を図る。
高規格堤防はこれまで、自治体や民間事業者などが施行する市街地再開発事業や土地区画整理事業などと共同することで具体化されてきた。その整備事業の流れは、主体(共同事業者)や事業内容によって異なり、その進捗過程では地域住民との調整が多岐にわたるなどが課題となっていた。
今回のとりまとめにより、合意形成がスムーズになることで、国では宅地利用における高規格堤防の整備をより一層促進させたい考えだ。
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