騒音下の工事でも円滑な会話可能に、“音声認識AI”で通話相手を特定する「骨伝導ヘッドセット」開発:トンネル工事
清水建設は、京セラと共同で、トンネル内の騒音下でも、入坑者が防塵(じん)マスクや防音耳栓を着用したまま、コミュニケーションが可能な通話システム「骨伝導ヘッドセット(仮称)」を開発した。既に施工中の九州新幹線西九州ルートのトンネル工事で、実証実験に成功している。今後は、作業者の体調を測定する機能追加も検討して、2019年中の完成を目標とし、2020年度には商品化も視野に入れる。
清水建設は、京セラの協力を得て、トンネル内の騒音下でも、入坑者が防塵(じん)マスクや防音耳栓を着用したままコミュニケーションできる通話システム「骨伝導ヘッドセット(仮称)」の基本開発を終了したことを明らかにした。
骨伝導で会話するため、防塵マスク・耳栓はしたままでOK
新ヘッドセットは、清水建設の次世代型トンネル構築システム「シミズ スマート・トンネル」の技術開発の一環として開発。実証実験は、長崎県大村市内で施工中の九州新幹線の木場トンネル工事(工期:2014年2月28日〜2020年3月27日)でプロトタイプを導入し、良好な結果が得られたという。
開発意図には、トンネル工事の現場では、粉じん作業があるため、防塵マスクの着用や騒音レベルによっては耳栓の着用が必要とされる。しかし、こうした保護具は、坑内でのコミュニケーションの妨げになり、生産性の低下や事故の要因となっていることがあった。
こうした課題を解決する骨伝導ヘッドセットは、骨伝導スピーカー、骨伝導マイク、スピーカー・マイクと音声データを有線で送受信する無線接続アダプター、無線アダプターと音声データを送受信する超小型通信機器で構成する。骨伝導スピーカーは、音声の振動をこめかみ(骨)から聴覚神経に伝導させ、骨伝導マイクは声帯やこめかみの振動から音声を拾う。このため、通話する度にいちいち保護具を脱着する手間は要らない。
操作方法は、使用者がマスクを着用したまま、通信相手の名前を声にするだけで、音声認識AIアプリが自動的に単数あるいは複数の通話相手を選び、通話できるようになる。
実証実験では、木場トンネル工事の切羽付近の騒音下で実施した。防塵マスクと防音耳栓を使用した状態でも、「極めてうるさい」と定義される90〜95dB(電車が通過するときのガード下同等)レベルの騒音下でも、明瞭な音質・音量での通話が証明された。
清水建設は引続き、引き続き試作機を木場トンネル工事で供用し、使用者から抽出したニーズを開発に反映する。共同開発者の京セラは、心拍・脈拍・血圧などを測定するバイタルサインセンシング機能付きデバイスの提供も視野に入れている。両社は2019年夏にも構成機器の機能を一つにパッケージ化して、高性能かつ小型の製品版モデル機を完成させる。その後、2020年度には、商品化も目指すという。
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