人手不足とコスト削減を実現するLPWA「Sigfox」を採用したインフラ傾斜監視システム
西松建設は、度重なる災害で土砂崩れが頻発している事態を受け、インフラ構造物の傾斜監視をクラウドで管理する「OKIPPA104(オキッパ・テン・フォー)」の販売に注力している。このシステムでは、給電や通信の配線作業が不要で、従来方法の約1/2までコストをカットできるため、その分観測点を増やせ、人手不足解消につながる。
西松建設が提案するインフラ監視システムは、無線通信規格LPWA「Sigfox(シグフォックス)」とクラウドを連携させ、センサーボックスを置くだけで、給電や通信の配線作業が不要な傾斜監視システム。
巡視による「目視点検」の弱点をカバーするインフラ傾斜監視システム
ここ数年、国内で頻発する豪雨、地震、台風などに伴い、土砂災害のリスクが高まっていることを受けて、インフラ施設の斜面部を点検・監視する体制の構築は喫緊の課題となっている。一方で、現状の無線通信を用いた傾斜監視技術では、通信機器、通信料、電力供給費を合計したコストが、1か所あたり、800万円前後と高価で、実際には点検員が巡視して、目視による点検で対応せざるを得ないのが実情だ。
西松建設では、この問題を解決するため、省電力広域無線通信ネットワーク「LPWA(Low Power Wide Area)」のうち、京セラコミュニケーションシステムがオペレーターとなっているIoT向けのLPWA通信規格「Sigfox」を活用した傾斜監視システムを開発した。Sigfoxは、少量のデータを省電力で飛ばすことができ、自営の基地局を設置する必要がないメリットがある。
OKIPPA104は、小型センサーボックスを傾斜監視したい場所に設置するだけで、計測を開始する。データは無線通信でクラウドサーバへ転送され、PCやスマートフォンなどでいつでもどこからでも確認することが可能。本体サイズは10×10×4cm(センチ)、重量約300g(グラム)のコンパクト設計。屋外用IP67を取得し、防水仕様となっている。
取得するデータは、傾斜角度(3軸方向、精度約0.2〜0.3°)、衝撃検知(2〜16G)、GPS位置測位、方位角(コンパス機能)、温度(ボックス内部)。クラウド上では、再計測や衝撃検知のしきい値、ダウンリンク周期が変更でき、計測間隔は標準で1時間に1回としているが、場合によっては15分に1回にも対応する。給電は、リチウムイオン電池を採用し、1時間に1回の送信であれば2年間の電池交換は不要。
このシステムでは、センサーボックス本体費用と2年間の使用料のみがかかる。傾斜監視の単価や運用コストが、従来技術の“約半分”まで大幅に削減できるため、観測点を増やすことが可能になる。
ボックス設置は、ドライバーやマグネットでプラ杭や金属部に取り付けるか、専用プラグでコンクリートに据えつけるだけで済む。いままで設置が困難だった場所の監視も可能になり、これまでの人の手による巡視業務では多大な労力が必要だったが、それも解消される。さらに、人の目による目視点検では見逃してしまう軽微な変状も見逃すことも無い。
センサーボックス本体費用は19万8000円/台(利用可能期間:2年間まで)。クラウドの利用料は月額2000円/台。
西松建設では、地滑り地域に指定され対策が必要な自治体の他、全国で落下事故が頻発している看板などの工作物、機器が傾くと発電効率に影響する太陽光発電施設への導入を提案していくという。
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