東急建設が進めるVR技術を駆使した安全衛生教育と建設業の魅力発信。企画・開発に携わった伊藤誠氏に聞く:建設×VR/AR/MR(1/3 ページ)
東急建設は、VR体験型の安全衛生教育システム「Tc-VOW(ティーシーバウ)」を開発し、建設業における3大労働災害を想定したコンテンツ制作を進めている。現在、サービスを行っている「墜落・転落災害」のVRコンテンツは、同社の協力会社も含め、これまでに作業員延べ150人以上が体験した。Tc-VOWとはどういうものか、建設業にVRを取り入れた意図、次の展開に位置付けるVR/AR技術を活用した建設業の魅力発信など、企画・開発に携わった東急建設 伊藤誠氏に聞いた。
東急建設では、建設現場の“災害事故ゼロ”を目的に、VR(ヴァーチャルリアリティー)体験型安全衛生教育システム「Tc-VOW」を2017年8月に開発。VR空間で建設現場を再現し、災害を疑似体験することで、不安全行動を起こさないように安全意識の喚起を図っている。コンテンツは建設現場における3大災害を想定したもので、死亡災害の40%強を占める「墜落・転落災害」を皮切りに、2018年5月には「建設機械・クレーン等災害」を完成し、現在は「倒壊・崩壊災害」の企画を進めている。
他方、2018年6月には、一般向けにVR技術によるスマートフォン用アプリの提供も開始。気軽に施工管理業務の一日の流れを疑似体験できるなど、建設業の魅力を広く発信している。建設業におけるVR技術の活用について、土木事業本部 技術統括部 土木技術設計部 技術企画グループリーダーの伊藤誠氏(工学博士)に聞いた。
――VR技術に着目した経緯
伊藤 近年、VR技術を活用した映像コンテンツの普及が進む中、建設業にも転用できないかと思案したところ、VRの特徴である「非日常の体験」ができる利点を生かして、建設現場での災害事故を疑似体験してもらうことで、より安全意識を高められるのではないかと考えた。
現在も建設業の死亡災害事故は依然として多く、さまざまな安全対策を講じているものの、減少しているとはいえ、無くなるまでには至っていない。これまでは、災害事故事例などを用いた教本による座学の安全講習が一般的だったが、それだけでは目に見えるような効果が得られず、体験型の学習が試みられている。体験型は実際に安全帯を着用し、落下を体験するようなものだが、あくまで研修の一環として行うため、臨場感に欠ける点は否めないだろう。やはり注意喚起を促すには、リアリティーがあり、記憶に残る“嫌な体験”が最も効果的といえる。
そこで、実際に遭遇したら命を落としかねない「墜落・転落災害」をVR技術によって疑似体験してもらえば、さらなる安全意識の向上につながるのではないかと考え、2017年6月よりシステムの開発に着手した。
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