AIを活用した重機の安全装置「クアトロアイズ」を開発、大林組
大林組は、現場作業員の作業姿勢やヘルメットの特徴を学習させたAIを活用して、建設重機に設置したカメラで作業員を高精度に認識し、危険がある際は強制的に重機を停止させる安全装置「クアトロアイズ」を開発した。既に1件の現場で試験的に導入され、今後は順次、建設重機に取り付けていくとしている。
大林組は2018年7月25日、作業員の姿勢やヘルメットの形状をAIに認識させ、建設重機に搭載した複数のカメラで、危険性がある場合は重機を強制停止させる「クアトロアイズ」を開発したことを公表。試験的に1件の建設現場で導入され、今後は実用化の検討を行っていく。
AIに作業員の姿勢や世界中のヘルメットの形状を学習させる
新開発のクアトロアイズは、カメラで撮影した画像の処理に、AI技術のディープラーニングを利用した画像認識を活用し、作業員の検知精度を飛躍的に向上させた。
建設現場における重機と作業員の接触事故は、死亡災害の主な原因の一つとされる。安全対策として、重機で作業を行う際には接触の危険がある区域を立入禁止にしているが、重機が停止中だと誤認し区域内に侵入してしまうことや、重機に立入禁止措置を講じることが困難な移動中の不安全行動で、接触事故が発生するリスクがあった。これまでに、安全を確保する技術として、超音波センサーでオペレーターの死角となる後方の物体を検知するものや、作業員に携帯させたICタグの電波を検知する装置があったが、検知の精度は今まで課題とされていた。
クアトロアイズは、カメラを搭載したAIに、建設現場で想定されるあらゆる作業姿勢を学習させるとともに、世界中のヘルメットの特徴も学ばせることで、従来の一般的なカメラでは困難だった屈んだ姿勢や大きな材料に体が隠れた作業員の検知もできるようになった。
カメラは、ステレオカメラを採用し、距離を正確に計測する。警戒が必要な距離に作業員が近づいた段階で警報を発するだけでなく、接触の恐れがある距離に近づいた場合は重機を強制停止させる。
従来型の安全装置は、警報を発するだけで、実際の回避や停止の判断は人の手に委ねられていた。そのため、検知できたとしても、ヒューマンエラーによる事故が起きる可能性もあった。強制停止することで、確実に重機と人との接触を防ぐ。クアトロアイズの警戒距離と接触危険距離は、10m(メートル)以下の範囲で重機ごとに任意に設定することが可能だという。
また、輝度補正などの画像処理技術を用いることで、トンネル坑内など20ルクス程度の比較的暗い作業場所や逆光でも動作する。
対応する重機は、バックホウやクレーン、フォークリフトなど、汎用性の高い重機に後から取り付けることが可能。大林組では今後、「クアトロアイズ」を建設現場の重機に順次取り付け、作業員と重機の接触事故を防止することで、安全で働きやすい作業環境を実現していくとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 建設重機に着脱可能な遠隔操作装置を開発、フジタ
フジタは、バックホウなどの建設重機を遠隔操作できる装置「ロボQS」を開発。汎用の油圧ショベルに現場で装着できる遠隔操作装置で、災害時の土砂崩れなど、人の立ち入りが危険視される現場で威力を発揮する。2018年7月18〜20日に東京ビッグサイトで開催されたメンテナンス・レジリエンスTOKYO 2018内の「i-Construction推進展2018」で、土工の建設現場をVR化して、実演デモを行った。 - 20億円を投じICT、IoTトンネル工事システムの開発に着手、清水建設
清水建設は、ICT、IoTなどの先端技術を活用して、山岳・シールドトンネル工事を対象に生産性と安全性を向上させる次世代のトンネル構築システムの開発に着手する。投資額は約20億円で2020年の完成を目指す。 - NIPPOの重機用緊急停止システムが安全規格第1号、重篤災害ゼロを目指し開発
NIPPOが、重篤事故ゼロを目指し開発した建設機械用の緊急自動停止技術「WSシステム」が、新しい安全規格「Safety 2.0」の適合第1号に認定された。WSシステムは2016年に実用化されたタイヤローラーとホイールローダーを対象とした緊急自動停止装置。これまでの警報音を鳴らして、危険を知らせるのではなく、より確実に安全性を確保するため、物理的に重機をストップさせることに発想を転換して実用化させた。 - 重機で移動しながらスキャンできる搭載型レーザー計測システム、フジタ
フジタは、重機に搭載するレーザー計測システムを開発し、岐阜県の開発造成工事で精度検証を行った。結果は、国土交通省が示す、出来形管理の基準をクリアする精度が得られたという。