世界遺産「軍艦島」で、倒壊前の微細な揺れを常時監視
世界遺産に登録されている軍艦島で、三井住友建設は倒壊前の予兆を捉える振動センサーを設置した。センサーはワイヤレス方式で、通信・電力ケーブルの設置が不要で、島から離れた場所で常時モニタリングが可能なシステムを開発し、導入している。
三井住友建設は2018年6月25日、世界文化遺産に登録されている長崎市端島、通称「軍艦島」で日本最古の高層鉄筋コンクリート造建築物に対する「ワイヤレス振動センサーによるヘルスモニタリングシステム」の設置と、実証運用を開始したことを公表した。
システムは東大発ベンチャーのソナスと共同開発
実証運用は、長崎市と共同で、東京大学地震研究所の楠浩一教授の助言を受けて行っている。産業革命遺産としてその保全の重要性が高まる「軍艦島」内の30号棟に、「ワイヤレス振動センサーによるヘルスモニタリングシステム」を設置。30号棟は日本最古の高層RC造住宅で、1926年の竣工。補修による保存が困難とされているため、倒壊の危険性を検知する目的で、最終的にどういう壊れ方をするのかをモニタリングする。
構造物の振動には、その構造物の揺れやすさの特徴があり、システムでは、その微小な揺れを高感度な振動センサー(加速度計)で常時計測し、データをクラウドに随時アップロードする。固有振動数や振動モードの統計値を観測し、何らかの異常が生じた場合は瞬時に検出して、規定値を超えた場合にはアラートを流す。
システムは、東京大学発ベンチャーのソナス保有のマルチホップネットワークによる計測システムを転用し、構造物の計測向けに共同で開発。センサーは従来の機器よりも高精度で、今まで計測ノイズに埋もれていたわずかな変化も検知可能だという。センサーノードは省電力設計で、バッテリーの長期間駆動を実現する。従来の地震観測同様に、トリガー機能(センサーノードのウェイクアップ機能)も備え、地震時には必ずデータを取得する。
大地震発生時にインフラや防災拠点が使用可能か判別
システム開発の背景としては、大地震発生時には多数の構造物が同時に被害を受けるため、技術者による点検では数日から数週間の期間を要することが想定されている。しかし、緊急輸送を支える社会インフラや防災拠点となる官庁舎などは、被災後すぐに使用できるかどうかの判断を迅速に行いたい要望がある。そのため、正常な状態を常に監視することで、何らかの異常が生じたことを検出する合理的なロジックが求められていた。今回の軍艦島での採用で、構造物の劣化の兆候が計測から得られることが期待されており、老朽化が進む建築構造物への適用も可能になるとしている。
システムの導入は、全ての構造物に適用可能なインフラ維持管理プラットフォームの構築に向けた取り組みの一環。三井住友建設では設置を完了した構造物から得られたデータを分析することで、損傷判定(倒壊判定)を行うなどの状態を把握して判定する合理的なロジック確立に向け、さらに開発を進めていくとしている。
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