淺沼組は2018年6月5日、杭頭免震構造を対象とした杭頭接合部の鉄筋定着工法「淺沼式杭頭接合部定着工法〜A-PHA工法〜」を開発したと発表した。同社が設計・施工を担当した2017年度竣工の物流施設で既に導入され、現在、特許を出願している。
コスト削減と雨水やごみ処理などの工程を省略化
A-PHA工法(Asanuma Pile Head Anchor Method)は、杭頭からの定着筋の先端に、機械式の定着金物を据え付ける簡易な工法。簡単でありながら、杭頭から伸びる定着筋先端の機械式定着金物と、免震装置からのアンカーボルト定着板との間に生じる圧縮ストラットにより、部材相互の確実な応力の伝達機構が形成される。
メリットとしては、アンカーボルトを杭頭に定着させる従来工法に比べると、杭頭凹部の孔壁保持のためのライナープレートやパイルキャップが不要となり、コストカットにつながる。また、追加の治具や型枠も必要としない上、打ち込むアンカーボルトも、従来より深く埋設せずに済むため、作業員の負担軽減にもなる。
開発の背景には、物流施設などの大規模中低層建築物では、地下工事の合理化を可能とする杭頭免震工法が数多く採用されていることがある。この工法は、基礎免震構造よりも杭頭定着筋を納めるスペースが少ないため、杭と周辺部材との応力伝達に、何らかの工夫を施すことが求められる。
そのため、アンカーボルトを杭頭部まで伸ばして定着させる方法が多く採用されてきたが、杭頭部に定着用の凹部を設けなければならず、手間がかかるハツリ作業が生じ、さらに凹部にたまる雨水やゴミの処理などの余分な施工工程が発生していた。
A-PHA工法では、そうした工程が省略されることで、必要な作業員の人件費も抑えられ、現場でも恩恵が得られたという声が多かったという。
淺沼組では、A-PHA工法の実用化までに、杭頭免震構造を対象とした地盤-杭-建物モデルにより、さまざまな条件をパラメータとした数千ケースの解析的検討を基に、杭頭接合部の応力が厳しい条件を抽出。有限要素の解析および構造実験で、A-PHA工法が十分な応力伝達性能を保有していることを確認した。
淺沼組技術研究所 構造研究グループの担当者は、地盤が不安定な場所での施工については、「地盤が不安定な場合は、杭頭免震構造そのものが成立しない場合もあるため、設計上、杭頭免震構造として納まっていれば地盤が不安定でも適用が可能だ」と回答。
A-PHA工法の現場への導入については、「既に導入したものが1件あるが、その他で現時点で決まっている物件はない」としながらも、「今後は、積極的に提案して普及展開を図っていく」と語った。
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