建築用ドローン点検は普及するか?業界のパイオニアに聞く(1/3 ページ)
ここ数年、建築・土木の分野でのドローン点検が、さまざまな展示会で出展されるようになり、各社のブースに人を集め話題となっている。空撮した俯瞰画像や映像からデータ解析するタイプのサービスが多くみられるが、ビルやインフラを実務レベルでドローン点検するとなると、調査診断のノウハウや画像解析の技術が必要になり、実証実験の回数がおのずと求められる。
愛知県に本社を置く、建築・土木分野でのドローン(小型無人飛行機)点検のパイオニア三信建材工業は、4年前からドローン点検に取り組んでいる。国や大学との数々のテストを多数重ねてきた成果が実り、高速道路の橋脚を対象にした現況調査、日鉄住金P&Eからガス管の点検などを受注し、建設分野でドローン点検の収益化に成功している数少ない企業だ。
現在は、2か年計画で、本業である建築・土木向けに、ドローン点検の実用化に向けた実証実験を進めている。2018年6月1日に東京ビッグサイトで開催された「建築再生展2018」の会場で、代表取締役社長 石田敦則氏に、建設分野でのドローン点検の方法や今後の見通しについてインタビューした。
調査診断の専門工事業×ドローンの強み
――ドローン点検に参入したきっかけは
石田社長 三信建材工業は、1963年に創業した建築、土木分野での防水、外装塗装、調査診断などを行う専門工事業者。下請けのため、当然ながら自社で価格を設定することはできないため、将来的な事業拡大を視野に入れたときに、自社の強みを生かしつつ、何か付加価値のある新規事業ができないかと考え、ドローン点検に行き着いた。それが4年前の2014年。
当時はドローンという単語も普及しておらず、「マルチロータヘリコプター」と呼ばれていた。ドローンの存在を知る人間もわずかだった。そこで、その分野の第一人者で、1998年から完全自律型ドローン(自ら考えて飛行する小型飛行ロボット)の技術開発を行っている千葉大学の野波健蔵教授の門をたたき、教えを乞うた。
野波教授は、当時から屋内で飛ばせる非GPS機体の必要性を説いていた。その後の2018年には、福島第1原発の3号機建屋内調査で、レーザー技術を応用して非GPS環境下で自律飛行する機体が投入されている。
千葉大・野波教授のもとで非GPSの機体開発に関わる
石田社長 機体の選定には、さまざまなメーカーを候補として検討したが、その時には海外製で非GPSの機体は見当たらなかった。現在では、千葉大学 野波研究室がベースとなって2013年に創業した自律制御システム研究所(ACSL)から、機体の供給を受けつつ、共同開発にも携わっている。
これまで、農薬散布、空中測量、災害時の空撮、太陽光パネルの点検など、さまざまな分野でドローンの活用を模索してきたが、ある時点で、やはり専門工事業者として立ち返り、建築・土木分野に特化することにした。
――最近のドローン点検の取り組みは
石田社長 当社とACSL、建築研究所の3社で、建築を対象にしたドローン点検技術の開発を2カ年計画で進めている。各社の役割としては、当社が点検ノウハウ提供と点検技術の開発、ACSLがドローン機体の提供、建築研究所が総合的な評価を行う。
初年度の2018年1月には、第1回となる外壁のひび割れ点検の実証実験を行った。ビルなどの構造物は、ドローンをコントロールする電波が壁に反射して乱れるため、完全自律飛行型のオートパイロットでの点検を目指している。
実験では、ACSLの「PF1-Vison」を導入。この機体は、独自の画像処理技術(Visual SLAM)を用い、非GPS環境下でも自律飛行が可能。アクシデントが発生した場合には、フェールセーフ機能で自分で帰還する機能も備える。画像処理技術のVisual SLAMは、カメラの動画像から特徴点を検出し、動画像内で移動する特徴点を追跡して解析(三角測量など)することで、自己位置や対象物との距離を推定する。
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