交通規制なしで、トンネル全断面を点検:ICTトンネル工事
東急建設は「トンネル全断面点検システム」の実証実験を千葉県内のトンネル工事で行った。自在に形を変えられるガイドフレームが、道路をまたぐことで、交通規制を敷くことなく、トンネル内の全断面を点検することができる。
東急建設は2018年4月10日、開発中の「トンネル全断面点検システム」の実証実験を2018年2月10日〜16日に自社施工のトンネル工事で行ったことを明らかにした。
可変・走行式のガイドフレームで画像撮影と打音検査
実証実験は、千葉県が発注した国道128号上の「社会資本整備総合交付金工事(内浦・仮称 新実入トンネル工)」で行われ、点検作業の手順や、取得した点検データの解析時間について検証した。
トンネル全断面点検システムでは、自動車の通行を規制すること無く、照明などの坑内設備を回避して点検するため、自由にフレームを変形できる可変式のガイドフレームを採用。フレームは走行式で、点検時にコンクリート片が落下した際には第三者を保護する役目も担う。
点検は、ガイドフレームの周囲を「ひび割れ検出ユニット」と「打音検査ユニット」が移動しながら、遠隔で覆工コンクリートの画像撮影と、打音判定を行う。これにより、コンクリートの浮き、ひび割れといった点検データを迅速かつ高精度に検出できる。
点検後、取得したデータは、独自開発の「エキスパートシステム」に、環境条件や施工条件、経過年数などの基本データを入力して組み合わせることで、構造物の生涯費用であるLCC(ライフサイクルコスト)に最適な補修方法が提示される。
トンネル全断面点検システムは、内閣府「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」の委託業務として、東急建設が、東京大学、湘南工科大学、東京理科大学、小川優機製作所、菊池製作所と共同で開発した。
背景の1つには、高度成長期に建設された橋梁やトンネルなどの道路構造物は高齢化が進み、2033年には全国に約1万本ある道路トンネルの約半数が建設から50年以上が経過し、老朽化に伴う危険性が差し迫っていることがある。
一方で、2014年7月には道路法施行規則の一部が改正され、トンネル、橋梁などは近接目視により5年に1回の頻度で点検が必要となった。しかし、一般的な道路トンネルの定期点検は、高所作業車で点検箇所にできるだけ近接して行うため、長時間の通行規制が必要となる。
さらにトンネルは点検範囲が広いため、近接目視や打音検査に時間がかかるだけでなく、人による目視や打音の判定では、検査結果に個人差が生じてしまう。そのため定量的な判断や過去の結果と比較した診断が困難といったさまざまな問題があり、これらをクリアする新たなインフラ維持管理技術が急務として開発するに至ったという。
東急建設では今後、既設トンネルの定期点検だけでなく、竣工前検査での活用についても検討を進めていくとしている。
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