炭素繊維の“より糸”で耐震補強、その利点とは:省エネビル(2/2 ページ)
小松精練は同社が開発したロープ状の炭素繊維複合材が、耐震補強材としてJIS化される見通しであると発表した。炭素繊維の製品規格がJIS化されるのは国内初。強度と軽量性を併せ持つ利点から、自動車や航空機分野で利用が広がっている炭素繊維複合材。同社は国内初のJIS化を追い風に、建築分野での導入拡大を目指す。
善光寺の耐震補強にも採用
最初の大きな導入事例となったのが、小松精練の旧本社棟を改築した研究開発棟「fa-bo(ファーボ)」だ。建物の周囲にカボコーマ・ストランドロッドを張り巡らすように設置し、耐震性能を高めている。さらに室内にはトラス状に加工したものをブレースとして設置し、圧迫感の無い“透ける”耐震壁を実現した。なお、fa-boは設計監理を隈研吾建築都市設計事務所、施工は清水建設、構造設計者は江尻建築構造設計事務所が担当している。
ファーボへの採用を皮切りに、2016年秋には茨城県で木造住宅の耐震補強に利用された他、2017年1月には長野県にある「善光寺」経蔵の保存修理で耐震ブレースとして利用されるなど、施行実績を積み重ねてきた。カボコーマ・ストランドロッドは、木に近い剛性を持つため、木材との相性が良いという。軽量であるため、木材を傷つける心配も少ない。さらに製造できる長さに制約がないため、鋼材を利用する場合と比較して、使用する本数や、接合部を減らせるメリットもあるという。
トータルコストは鋼材の「2〜3倍」
小松精練はカボコーマ・ストランドロッドを全国の販売代理店を通して、施主や施工店へ販売していく。価格は1m当たり3000円を予定している。これは鋼材などを大きく上回る価格だが、奥谷氏は「これまでの施工事例の中で、軽量で扱いが容易というメリットによって、施工を大幅に短縮できたという声も聞いている。施工費も含めたトータルコストで比較すると、現状鋼材などの2〜3倍程度までは近づけられるのではないかと考えている。今後は量産化によるコスト低減を進め、2020年以降にはトータルコストで鋼材などと同等のレベルにしていきたい」と述べている。
現在、小松精練のカボコーマ・ストランドロッドの生産能力は1カ月当たり1万m程度。2018年中を予定するJIS規格化を追い風に、同社では30〜40億円を投じて生産能力を数倍以上に引き上げる考え。今後、耐震補強のニーズは高まっていくとみており、カボコーマ・ストランドロッドで2020年に耐震補強材市場のシェア10%、年間売上高30億円を目指す。
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