ドローンは屋内工事で有効なのか、新菱冷熱工業の検証:情報化施工
新菱冷熱工業は産業技術総合研究所と共同で、建築設備工事の生産性向上に向けた、建物内でドローンを活用するための基盤技術の開発を進めている。第1弾として、建物内での安定飛行と目標物への正確なアプローチを果たす技術の確立のため、風量測定用ドローンを開発したという。
風量測定用ドローンを開発
新菱冷熱工業は2017年5月、産業技術総合研究所(産総研)と共同で建築設備工事の生産性向上に向け、建物内でドローンを活用するための基盤技術を開発したと発表した。
土木や建築工事において、ドローンが写真撮影による現状確認や航空測量などに広く活用され始めている。建物の設備工事は大部分が建築躯体(くたい)施工後の屋内で行われるため、ドローンの安定した自律飛行を行うためにはGPSを使わない方法を検討する必要がでてきたという。屋内には壁や柱、建設資材や作業員などの障害物も多く存在するため、人によるドローンのマニュアル操作には高度な熟練操作技術が求められている。
一方で屋内工事は、アプローチが困難な場所や人の立ち入りを避けたい場所があり、作業員が行う屋内工事を代替するドローンの活用に大きな期待が寄せられている。そこで新菱冷熱工業は、同社の中央研究所(茨城県つくば市)に建物内の天井を模擬した飛行実験施設を設置し、産総研とドローンの屋内飛行技術に関する研究を行った。
まずは建物内での安定飛行と目標物への正確なアプローチを果たす基盤技術の確立を目指し、風量測定用ドローンの開発に取り組んだ。風量測定用ドローンは、高所にある天井に設置された空調吹き出し口(制気口)の風量測定作業を代替する。
産総研の画像処理技術により、GPSを使わずに自律飛行を実現。最初にオペレータがカメラ画像上で制気口を指定。屋内に固定したカメラで撮影した画像からドローンに装着した複数のマーカーを自動認識してドローンの位置を計測する。その情報を基にドローンが自動で制気口にアプローチし、風量計を制気口に近づけて風量を測定する。
制気口からの風量測定は、集風型風量計を使用した。制気口から吹き出された空気をフード付きダクトで集め、ダクト内に搭載した風速計で風量を測定するもので、新菱冷熱工業が独自に開発した風量測定装置「WINSPEC」で培った技術を採用している。これにより、ドローンのプロペラから発生する気流の影響を受けずに風量を測定できる。
また一般的なドローンは安定飛行のため搭載物を中央に集め、重心が機体の中心と一致するように設計するが、この風量計を搭載するためにはドローンの中央部にスペースを設ける必要があった。そこでフレームを井形構造として風量計の設置スペースを確保し、バッテリーやオートパイロットなどの搭載物は重量バランスを十分に考慮したうえで、その周囲に配置している。これらの共同開発技術は、特許出願済みとする。
高さ3.5mの制気口に風量計を近接させる実証試験を行ったところ、通常であれば仮設足場上で一箇所当たり5分の作業時間を要するが、開発したドローンを用いると仮設足場なしで同1〜2分に短縮されたという。機材の運搬や設置、他の制気口への移動、撤収などの作業時間やコストを考慮しても、新菱冷熱工業は「仮設足場に比べて軽量でコンパクトなドローンシステムを用いることの優位性は高いと考えられる」と語る。
同社では今回の技術開発により、ドローンの屋内における飛行と周囲環境との接触を伴う作業に関する基盤技術を確立するとともに、屋内飛行に関するさまざまな知見を得ることができたとしている。今後も実証試験を重ね、設備の遠隔監視をはじめとする各種作業を行うためのドローンの実用化に向けて、引き続き研究を進める方針だ。
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