BIMとVRは住宅設計にこそ大きなメリットがある:BIM/CAD(1/3 ページ)
建築業界で徐々に活用が進みつつあるBIM。大規模建築での利用が目立つBIMだが、これを住宅設計に積極的に活用すべく、組織改革を進めているのが住宅設計・デザインを手掛けるフリーダムアーキテクツデザインだ。BIM導入の延長として2017年からVRサービスの展開も計画する同社に、BIMを導入した背景や、社内に浸透させるための苦労や取り組みについて聞いた。
新しい建築プロセスとして、徐々に国内でも広がりつつあるBIM(Building Information Modeling)。大型建築での活用が目立つBIMだが、「住宅設計にこそBIMは向いている」と語るのが、住宅設計・デザインを手掛けるフリーダムアーキテクツデザイン(東京都中央区)でBIM設計室 室長を務める長澤信氏だ。
独立系設計事務所である同社は、2016年で設立から22年目を迎える。現在、全国に14カ所のスタジオを展開しており、2015年度は約370棟の住宅設計の実績がある。同社ではこうした住宅設計のプロセスに、2年程前からオートデスクのBIM「Revit」の導入を開始。2016年8月には同社が手掛けた住宅で、国内で初めてBIMデータによる建築確認申請の確認済交付を受けるなど、積極的なBIM活用を推進している。さらに2017年2月からは、BIM活用の延長として、VR(バーチャルリアリティ)を利用した新サービスを、一部の顧客を対象に開始し、順次拡大していく計画だ。
BIMのメリットや活用に注目が集まる一方、導入コストや設計者のスキル習得、既存のワークフローの変更など、導入の障壁は決して低くないというのも事実だ。フリーダムアーキテクツデザインではどのようにしてBIMの活用・導入を進めているのか。また、その延長上にあるVRを利用した新サービスの狙いについて長澤氏に聞いた。
顧客視点でBIMを導入
長澤氏は以前、他社で店舗開発や都市開発事業に従事し、その後フリーダムアーキテクツデザインに移り住宅業界に携わることになる。業界を移った時にまず感じたのが、「住宅の設計側とメーカー側の視点に比重が置かれており、ユーザー(顧客)側の体験を考える視点が不足しているのではないか」という疑問だったという。
特にそれを感じたのが、住宅は数千万円単位で購入する顧客にとっての「一生の買い物」でありながら、その打ち合わせを2Dの図面を利用していたという点だ。当然ながら大半の顧客は設計図面から住宅の完成図をイメージすることは難しく、具体的なビジュアルに触れられるのはパースを作成してからになる。
顧客視点で考えた場合、こうした「一生の買い物」に関する打ち合わせが、具体的なイメージに触れられないままで進んでいくというのは果たして最適なのかーー。特に、個別の注文住宅を手掛ける同社であれば、顧客のニーズや要望も多岐にわたる。もちろん、設計会社に対する顧客の期待は大きい。そこで設計の初期段階から顧客とイメージを共有できるようにすることを狙い、2年ほど前からBIMの導入を開始した。
長澤氏は「BIMの導入は顧客体験だけでなく、設計作業の効率化という面にも期待があった」と述べる。戸建住宅の場合、設計を進める中で、実施設計の段階に入った後でも、顧客のプランや要望が変化するといった場合も少なくない。こうした変化に対応する場合、従来の2D図面であれば平面図を修正すると、同時に展開図にも手を加える必要があり、時間がかかる。一方、Revitでは平面図の修正が他の図面にも同時に反映される。BIMであれば戸建注文住宅ならではの細かな顧客のニーズの変化にも対応しやすいというわけだ。
また、初期段階から3Dモデルを利用して打ち合わせを進めていくことで、「同時に一緒に家づくりをしているという感覚を持ってもらいやすくなり、顧客の満足度向上にもつながっている」(同氏)という。
こうした設計の効率化により、BIMを利用する案件では、従来と比較して顧客との合意形成のプロセスに要する時間を、約半分近くまで短縮できているという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.