シンガポールの「国土3Dモデル化計画」、都市のビッグデータ解析がもたらす価値:BIM/CAD(1/4 ページ)
国土全体を3Dモデル化し、環境解析や都市計画に活用できるビッグデータ・プラットフォームを構築するーー。そんな大規模なプロジェクトを進めているのがシンガポールだ。「バーチャル・シンガポール」と呼ぶこ壮大な計画の狙いと展望について、来日した同プロジェクトを推進するシンガポール国立研究財団のジョージ・ロー氏に聞いた。
建築確認申請時にBIM(Building Information Modeling)モデルの提出を義務付けるなど、BIM活用を積極的に推進しているシンガポール。現在、同国ではこうした建物だけでなく、国土全体を3Dモデル化しようという大規模なプロジェクトが進められている。シンガポール国立研究財団(NRF)、シンガポール土地管理局(SLA)、GovTechが主導して進めている「バーチャル・シンガポール」である。
バーチャル・シンガポールが目指しているのは、単なる国土の3Dモデル化ではない。BIMモデルのように多様な情報を内包した「都市のビッグデータ・プラットフォーム」の構築を目指しているのが大きな特徴だ。政府がこうしたデータベースを公開し、「バーチャルなもう1つのシンガポール」の中で、都市計画や住宅開発、環境・防災対策など、さまざまな分野のシミュレーションを行えるようにするという壮大なビジョンを持っている。
2016年12月にバーチャル・シンガポールに協力する仏ダッソー・システムズが大阪市でセミナー「持続可能な都市の実現に向けて〜次世代に続く都市戦略とは〜」を開催。それに伴いNRFのプログラム理事会のディレクターとして同プロジェクトを率いるGeorge Loh(ジョージ・ロー)氏が来日した。同氏にシンガポールがこうしたプロジェクト進める背景や詳細、そして今後の展望について聞いた。
都市の課題は複雑化している
ロー氏はシンガポールがバーチャル・シンガポールを推進する背景の1つとして、「都市・国家の抱える問題が複雑化している」という点を挙げる。「例えばヒートアイランド現象に取り組むと考えた場合、単に交通渋滞を解消したり、街路樹を増やしたりするだけでは解決できない可能性がある。なぜなら、周辺の騒音が大きいため住民が家の窓を閉じてしまうことでエアコンの利用率が上がり、その排気で都市の温度が上昇しているという可能性も考えられるからだ。このように都市や国家が抱える1つの問題は、一方向からだけではなく、多角的な分析と取り組みを行わなければ解決できなくなりつつある」(ロー氏)
複雑な都市の問題が顕在化する一方、その解決を担うシンガポールの行政側の体制にも課題があるという。各省庁は交通、環境、住宅といった担当分野ごと独立している。そのため、複雑な課題を解決するためには各省庁が協力した施策を打つべきであっても、いわゆる「縦割り行政」によって、効果的な施策が行えなかったり、取り組みにムダが生じたりしてしまうといった課題だ。
バーチャル・シンガポールが立ち上がった背景には、こうした複雑化する都市・国家のさまざまな問題と、それに対処する行政側の課題の双方を解決する狙いがあるという。「バーチャル・シンガポールは、縦割り行政を無くし、各省庁がコラボレーションしながら問題解決を行えるようにするためのデータベースを目指している。例えばこれまでは、1つの省庁がある地域の交通に関する課題解決を目的に、研究機関に3Dマップの作成や環境解析を依頼する。しかし、同時に別の省庁が、同じ地域に対して水害の解決を目的とした環境解析を依頼するといった状況だった。同じ地域の問題を解決しようとしているのに、こうした縦割り行政では無駄が多い。そこで、複雑化する都市・国家の問題を効率よく解決できるよう、省庁を横断して包括的に都市や国家の問題を共有できる1つのデータベース、ビッグデータ・プラットフォームを作成しようというのがバーチャル・シンガポールというプロジェクトの目的の1つだ」(ロー氏)
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