中性子でインフラを非破壊検査、適用範囲を広げる新手法:情報化施工(2/2 ページ)
理化学研究所などの研究グループは、中性子を利用しコンクリート内部の損傷などを検知する非破壊検査の新手法を開発した。従来のように対象物を検出器と中性子源で挟み込む必要がないのが特徴で、橋だけでなく空港の滑走路やトンネル壁の非破壊検査に適用できるという。
厚さ30センチメートルまでクリア
共同研究チームが中性子源として利用したのは「理研小型中性子源システムRANS」(以下、RANS)だ。理研が開発し、現在さらなる高度化を進めている普及型の小型中性子源システムである。放射線はその線種やエネルギーによって透過率や反応率が異なるため、目的に応じた適切な選定が必要になる。また、放射線の測定に用いる検出器も、それぞれ測定できるエネルギー範囲や測定効率が異なる。研究グループはRANSと組み合わせて利用し、インフラ構造物の測定のために適切な検出器と測定法を選定した。
RANSを用いた実証実験では、整備床版上面に生じた劣化損傷を想定し、厚さ6センチメートルのコンクリートに、空隙または水に見立てたアクリルブロックを挟んだサンプルに対し、厚さ方向に中性子を入射し内部の構造を計測した。アクリルは水に近い水素密度を持つため、測定での見え方も水に近くなる。
その結果、コンクリート板下で位置が異なるアクリル部や空隙部を捉えることができたという。これにより路面から6(cm)センチメートル以下の水または空隙の二次元分布の非破壊測定が可能であることを示した。また、厚さ10cmのコンクリートより下にある厚さ5mmのアクリルブロック、厚さ30cmのコンクリートの下にある厚さ55mm(ミリメートル)のアクリルブロックについても、本研究と同様の手法で検出に成功した(図3)。
共同研究グループは今後、中性子源を実際のインフラ構造物付近へ持ち込むための「可搬型加速器中性子源」の開発とともに、測定時間短縮のための検出器改良や計測の最適化を行い、コンクリート内劣化損傷の検出能力の向上を目指す。続いて社会実装開発へ向けた実証機開発フェーズへと進む計画だ。
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