節電対策の主役に急浮上、BEMSの費用対効果を検証:連載/電力を安く使うための基礎知識(3)
電力需要が増加する夏を前に、多くの企業で節電対策が急ピッチに進んでいる。毎日の電力使用量をきめ細かく管理しながら抑制するためには、コンピュータを使ったBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)が最も有効な手段になる。
連載(1):「料金計算の仕組みが分かれば、電気代をスマートに削減できる」
連載(2):「節電を1台でこなす、デマンドコントローラ」
本連載の第2回では、企業の電気料金を引き下げるうえで電力使用量の最大値(ピーク)を抑えることが重要なこと、そしてピークを制御する装置として「デマンドコントローラ」の導入が効果的であることを説明した。さらに節電対策を徹底するために、ピークの抑制だけではなく毎日の電力使用量を継続して削減する目的で、BEMS(ビル向けエネルギー管理システム)を導入する企業が増えている。実際にはBEMSの中にデマンドコントローラを組み込んで使うケースが多く、ピークの抑制と電力使用量の削減を合わせて実施できるようになる。
BEMSは経理や販売など通常の業務に使うコンピュータシステムと同様に、各部門のパソコンとシステム部門が運用するサーバの組み合わせで構成する。ただし最近は自社でサーバを持たずにITベンダーのサーバを活用する「クラウド型」が増えており、BEMSでもクラウド型のシステム構成が一般的になってきた(図1)。
BEMSの基本は「電力見える化」と「電力制御」
BEMSを使って電気料金を削減する方法を理解するために、具体的にBEMSの中身を見てみよう。BEMSの構成要素は企業の規模や業種などによって変わってくるが、標準的に必要とされる機能と設備は図2のように集約できる。これは2012年4月から始まった経済産業省のBEMS補助金制度で規定されている機能をもとにまとめたものである。
まずBEMSを導入する企業側で必要な機能は大きく分類すると2つある。電力の使用量を計測してグラフなどで表示する「電力見える化」と、電力の使用量に応じて電気機器のオン/オフなどをコントロールする「電力制御」である。このうち電力制御用の装置として最も多く使われているのがデマンドコントローラだ。
もう一方の電力見える化に必要な設備としては、オフィスで使われているパソコンや通信用のルーターのほかに、空調や照明など電気機器の電力使用量を計測するための電力センサーが欠かせない。そして電力センサーからのデータをもとにパソコンの画面に電力使用量のグラフなどを表示する「電力見える化」のソフトウエアを実装する(図3)。
あとは電力使用量のデータをアグリゲータのサーバに自動的に送るように設定しておくと、過去の使用実績や同種の企業のデータと比較して、節電対策のための「課題抽出」や「診断」といったサービスを受けることができる。
小規模なオフィスで初期導入費は100万円程度
このようなBEMSの機能を活用することで、どのくらいの節電効果を期待できるのか。企業にある各種の電気設備の稼働状況は業種によって大きく変わるため、一概には言えないが、少なくとも電力使用量を10%は削減できると考えてよい。というのも、BEMSの補助金制度において、電力使用量を10%以上削減することが必須条件になっているからだ。アグリゲータはBEMSのサービスを提供するうえで「10%削減」を必ずクリアしなくてはならない。
残る検討課題は、BEMSに必要な設備の導入と導入後の運用にかかるコストである。この点でも経済産業省の補助金制度に伴って公表された情報が参考になる。補助金の対象になるアグリゲータ各社の製品に関して、初期導入費(工事費を含む)と月額利用料がモデルケースで示されている(図4)。
各社の価格は提供機能や導入企業の規模によって違いがあるが、ざっくりと以下のようなコストを想定するのが現実的だろう。
- 小規模なオフィスや店舗(空調機器が3系統以内):初期100万〜200万円、年間5万〜10万円
- 中規模なオフィスや店舗、小規模な工場(同10系統以内):初期200万〜400万円、年間10万〜20万円
- 大規模なオフィスや店舗、中規模な工場(同50系統以内):初期400万〜800万円、年間20万〜40万円
もちろん上記のコストは一般的な導入事例を前提にしたものであり、実際には電気機器の設置状況などをもとにアグリゲータに見積もってもらって初めて分かる。あくまでも参考値としてとらえていただきたい。
導入3年目からコスト削減効果
一方、実際の電気料金は小規模なオフィスや店舗の場合で、年間500万円から1000万円程度かかっているケースが標準的と考えられる。かりにBEMSの初期導入費が100万円、導入前の電気料金が年間500万円とすると、BEMSで電気料金の10%(50万円)を削減できれば、最初の2年間で初期導入費を回収できる。あとはBEMSの年間利用料を5万円として、導入3年目からは電気代の削減額がBEMSの利用料を大幅に上回り、その差額分がコスト削減になる。
BEMSに関しては経済産業省をはじめ地方自治体でも補助金制度を実施しており、補助金を活用すれば初期導入費を半分程度に減らすことができるが、補助金を受けられない場合でも、企業が電力を安く使うためにBEMSは十分な効果を発揮するだろう。
さらにBEMSの機能を拡張すれば、蓄電装置や発電装置を組み合わせて、電力をよりいっそう有効に活用することが可能になる。企業内で蓄電装置や発電装置を導入すれば、夜間の安い電力を蓄電装置に貯めて昼間に使ったり、太陽電池などによる自家発電の電力を優先的に使ったりすることができる。
蓄電装置や発電装置からの電力供給量と実際の電力使用量をBEMSがコントロールすることによって、電力会社から購入する電力を最小限に抑えることができ、状況によっては電力を売ることも可能だ。これが現時点で最も進んだ節電対策である。
電力を安く使うという観点で、次回からは一般企業でも導入できる蓄電装置や発電装置の最新事情を見ていく。
連載(4):「蓄電池に夜間の安い電力を、今なら補助金も使える」
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